「……あー、なんか廊下が一番怖い気がする」
心の中は嬉しさと動揺で落ち着きがなかったけれど、それを見透かされたくなくて必死で取り繕った落ち着いた声を出したつもり。
いや、でも本当にこの廊下、怖いんだ。
目をこらしても先が見えない感じがして。
帰りのルートは、音楽室を出てすぐのところにある階段を下っていくことになるので、行きよりはこの怖い廊下を歩かなくて済む。
そのことに気付いて、少しだけ気が楽になった。
音楽室を出てふたりで階段を下り始めると、私と水原の足音が人気のない廊下に響く。
……あー、もう、ホントに。
この音、嫌だ……っ!
「もー、やだ。まだ3階?なんかすごく長く感じ……、きゃああっ!!」
「危な……っ!」
ガクンッ、と急に視界がぶれた。
それが階段から足を踏み外したせいだとしばらく気付けないくらい、呆然としてしまう。
「こわ……っ」
「あ、あぶねー……」
「!?」
耳のすぐそばで声が聞こえて、驚いて思考が一瞬止まった。


