「……って、」


消毒液を染み込ませたティッシュでちょんちょん、と口元を拭いてあげると、ソファに座る恵くんは低く唸って顔を歪ませた。

今回もまあ、派手にやったものだ。

口の端が切れてるし。目元には小さな痣ができてるし。
手の甲も、指も、赤く腫れあがっていて痛そう。


「これ貼る?」

わたしが差し出した絆創膏に、彼はただ首を横に振る。

消毒液も絆創膏も、傷の絶えない彼のためにストックを切らさないようにしている。
というか、彼は傷を負ったときによくわたしの家に来るのだ。


ねえ、どうしたの。誰と喧嘩したの。――何度尋ねてみても、彼は眉根を寄せて黙ったまま。何も教えてくれない。

でも、


「……カレー?」
「うん、もうすぐできるよ。食べていく?」
「ん、」

キッチンから漂うスパイスの匂いに、くん、と鼻を鳴らして、ほんの少しだけ表情の強張りを和らげた彼には。


きっと本来あるべきところに、居場所が、ない。