『次はー……………駅に止まります』
静かな車内にアナウンスが響く。
また今日も1日が始まる。
「ふぁ……よく寝た………」
いつも通学時間は私の睡眠時間。
高校生になってからというもの、友達が増え、毎日目まぐるしいほどに充実している。
もちろん遊ぶ時間が増えた分、勉強もおろそかには出来ない。
結果的に睡眠時間が減ってる訳だが、元々ショートスリーパーな私には今の状況がさほど苦ではなかった。
家で2時間、電車で1時間眠れたら十分だ。
だけどそのせいか、157cmと、高校生にしては若干低めの身長ではある。
駅から学校までは徒歩5分くらいの距離だ。
いつも通りのんびりと登校する。
「おーい、あっかねー!おはよー!」
トン、と肩を軽く叩かれる。
「みやび………おはよ。朝から元気やなぁ」
「朱が眠そうなだけやろ、私は普通」
にこにこと笑うこの子__成田みやびは私、北村朱の親友とも呼べる友達だ。
いつも笑顔で、髪は天パらしく、ふわふわ。ちょっとぽっちゃりしてるのが気になるらしいけど、私はそんなみやびがとても可愛いと思う。
「朱、ちゃんと朝ごはん食べたん?」
「そういや、まだ食べてなかったな…」
「えー!!アカンやん!!ほらこれ!!」
みやびに差し出されたのはツナパン。
「ありがとう」
雅のカバンからはあと2つ、パンの袋が見えた。
……みやび、また授業中食べる気だな。
「それ何パン?」
「んーと、チョコとイチゴクリーム!」
さすが、その中からツナパンを選んだということは、やっぱり私が甘い物嫌いなこと覚えていたらしい。
「ふーん、そっか」
「自分から聞いといて興味なしとか!!」
みやびとはいつもこんな感じ。
もらったパンを食べならがらみやびと歩いてると、何か蹴ってしまったことに気がついた。
「ん?どうしたん?」
「………なにこれ」
私が蹴ってしまったもの、それは
「カエル?」
小さなカエルのストラップだった。
「そんなん置いときってー」
「でも大切なもんかもしらんやん」
なんとなく、そう思った。
「優しいなぁ、朱は」
「そんなことないって」
その時は特に気にすることもなく、制服のポケットにカエルのストラップをつっこんで学校へ向かった。
「おっはよー!朱、みやび!!」
学校へ到着するなり肩を叩かれる。
本日2回目。
「おはよー!!すずか元気やな!!」
「おはよ、すず」
「みやびこそ元気やんかー!って朱テンション低いって!!元気だしてこー♪」
「2人とも、なんでそんな元気なん……」
「それよりも聞いてや!!!」
私の問いかけは無視か。
「あんなあんなー!!奥村とな、出かけることなってん!!!!」
「「え!?」」
私とみやびは声を揃えた。
奥村、というのは私達と同じクラスの奥村樹のこと。それから、すずの片思いの相手。
「よかったやん、すず!!」
「おめでとー、楽しんできーや!」
「ありがとぉ2人とも~!!」
顔を赤くするすず。ほんとに……………
「樹のこと好きなんやなぁ」
「ちょ、ちょっと、改めて言わんとってや!!!恥ずかしいやん!!」
さらに顔を赤くするすずを見て微笑ましくなった。
「いいなー、私も佐々木と遊びたいなぁ」
不服装にみやびが呟く。
佐々木っていうのはみやびの好きな人。でもすずとは違ってクラスが同じではないから、なかなか会えんみたい。
「今度誘ってみたら?」
「は!?無理無理!!恥ずいし!!」
真っ赤になって否定する。
「いいなー、女の子って」
つい、ポロッと言ってしまった。
「「朱もやんか!!!」」
「あはは………」
ほら、やっぱりつっこまれた。
女の子って、そういう意味で言ってないんやけどなぁ。
「なぁ、朱は?好きな人おらんの?」
「それすずも気になる」
「え?私?……うーん、いないかなぁ」
「嘘やろ!!おるやろ!」
「そやそや、ゆーてみぃ!」
「お、おらんってば!!」
ううん、実はおる。とは言えない。
こんな感じで朝は恋バナ。
いつもはもう一人いるんやけど…………
「愛未おっそいなー、遅刻か?」
そう、いつも一緒にいる愛未がいない。
「愛未に愚痴きいてもらいたかったのにー」
ぶーぶーと文句を垂れ流す涼花。
愛未というのは、小谷愛未のこと。
愛未は可愛くて、モテる。はずなのに、全然恋愛に興味ないし、つまらない。
というかもったいない。
でも、たまに天然タラシ発言するんだよなぁ
男子が言われて嬉しいだろう言葉をさらっと言ってのける、恥ずかしがらずに。
そりゃあ、本人が無自覚だから恥ずいわけないんやけど。
そして男子の気持ちにとことん鈍い。
しかもドS、これは生粋のドSだ。
だけど友達は大事にする。
ほんまに愛未は面白い人やと思う。
「まーなーみーまーだーぁ?」
「はーい」
途端に後ろから声が聞こえて驚いた。
「うわっ!!………愛未!」
「おはよ」
何というタイミングで登場するんだ、己は。
「もー、びっくりしたやん……」
「うん、ワザとやから」
この子はほんまに…………………!!!!
「あ、そうだ、佐々木がみやびのこと探してたで、行ったげてな」
