これが最後と長い間慣れ親しんだ




部屋を見渡す。




豪華絢爛だった場所は




既に何もない部屋になっていた。




花「懐かしいなぁ....」




思い出に浸っていると襖が開かれる。




花「女将さん時間どすか?」




振り返ると立っていたのは




予想外の人物だった。




花「桂さん....」




桂「どういうつもりだ雅。」




花「どうって....」




桂「最初からこのつもりで長州の情報を盗んでいたのか?」




花「そうやない......」




桂「君は初めからあっちの人間だったのか?騙していたのか?」




花「違う.....」




あなたを守るためとは言えず




涙が溢れ出る。




桂「なぜ泣くんだ。」




花「そんなん知らんわ...」




桂「同情してほしいのか?」




花「そんなん違います‼︎もう.....出て行っとくれやす....」




苦しさから欄干にもたれ




泣き崩れる雅を見て桂は側による。




桂「雅....」




雅「見たくないんや桂さんの顔は...」




桂「ではなぜ泣く....」




力強く抱き締めると耳元で囁く。




桂「君が....好きだ....」




雅「え.....」




桂「どうやら惚れていたのは私の方だったらしい......すまなかったね....」




雅「今更....そんなんずるいわ‼︎」




桂「すまなかった....どうしても行くのかい?今なら私が身請けしたっていい。金なら倍にする。」




雅「あかんて....もう決めたことや....」




すると桂の表情が消えた。




桂「そうかい......」




雅「桂さん.....?」




桂「あんな奴らに奪われるくらいならいっそのこと.....」




桂は刀に手を掛けると抜き去った。




雅「なに...する気...」




桂「君は私だけの物だ...」




雅の結われた髪を力任せに引っ張ると




首筋に刃を当てる。




雅「痛っ....やだ...」




桂「怖いことなんてない。一瞬ですむから目を瞑っていなさい。」




雅「っ....」




ばさっ....




痛みを感じないことを不思議に思い




目を開けると桂は後ろを見つめていた。




桂「私に君を殺すことは出来ない。」




見れば桂の手には




雅の綺麗な黒髪が握られていた。




雅「なんてことを‼︎」




桂「形見のような物だよ。君を物に出来ないのなら君が一番大切にしている髪を僕の物にしたい。」




短く切られた髪から




行き場を失った櫛達が落ちる。




雅「女子の髪を切るなんて....ひどいお人.....」




桂「構わない。傷つければ君の心には一生私が残るだろう?私を好いていた気持ちを....忘れるな。」




ただ俯く雅の髪を撫でる。




桂「君はどんな姿でも美しい....いっそ殺してそばに置いておきたいほどに君が愛おしくて堪らない....」




目に光の無くなった桂に




雅は恐怖を抱く。




雅「桂さん.....」