身請けの話が決まってから




島原ではそれはもう大騒ぎだった。




一番人気の太夫が




素性の知れぬ浪士勢に身請けされると




聞きたくもない悪口も耳にし




新選組はどこに金があるかと囃し立て




凡そ良い話は耳にしなかった。




女「ほんにそれでええんか?」




花「ええんどす。」




女「それで幸せなんか?」




花「土方さんはええ人。他の方も話してみれば怖いことなどなんもおへん。」




禿「姐さん...」




花「寧々...ちゃんと女将さんの言うこと聞いてええ太夫になるんよ。分かったね?」




女将さんや寧々は心配で堪らず




身請けされる今日まで




毎日のように同じことを聞かれた。




女「桂はんには...」




花「あんお人には...会わん方がええ。うちと桂さんは....夫婦も他人も紙一重な仲やったんどす....もう切れた仲や....一度切れてしもた紙は....もう二度と....元には戻れしまへんやろ.....。」




そう言って笑う花君太夫は




今までで一番美しかった。




女「せやけどあちらさんはそうは思ってへんよ?何度も文は来るし会いたいてここまで来ることもあったんや?」




花「知っとります。」




女「太夫の覚悟は分かっとる。一度決めたことや。何が何でも幸せにならなあかん。」




花「今まででお世話になりました。寧々も女将さんもお元気で。」




女「太夫...」




みれば寧々も女将さんも




目に涙を溜めていた。




花「そんならうちは支度がありますから...失礼させてもらいます。」