桂「花君太夫...失礼してもいいかい?」



花「なにようどすか?」



開かれた襖から花君が顔を出す。



桂「先程はうちのものがすまなかったね。あれを渡しそびれてしまったから。」



桂は懐から袱紗を出すと



花君の前に差し出した。



花「毎度すんまへんなぁ。ただでさえうちを呼ぶのはお金がかかりますのに」



桂「情報を貰う謝礼だよ。少ないが...納めてくれるだろ?」



花「ほんならありがたく。」



受け取る花君を見て安堵したように



桂は笑った。



桂「一つだけ聞いてもいいかな?」



花「なんなりと。」



桂「もし壬生浪士組や幕府側の者が我々と同じく君を使おうとしたら...君は我らを裏切るのかい?」



真面目に見つめる桂を見ると



花君は一瞬黙ったのちに



近くへ寄り添い座った。



花「ここ...乱れとりますえ?」



耳元に唇を寄せると指先で髷をなぞる。



桂「太夫‼︎私は真面目な話をしているのですよ‼︎」



赤くなりながらも必死に



花君を見る桂に視線を送ると



立ち上がり部屋の奥に向かう。



花「ふふふ。桂さん、それは不粋というもの。世の中には知らん方がええこともたくさんおます。」



桂「太夫....はぁ....私はいつも貴方に上手く惑わされている気がするよ。」




花「あら。それがうちらの商売どすえ?」



楽しそうに笑う花君をみて



肩を落とすと桂は立ち上がり



襖を閉めようとして手を止めた。



桂「また来るよ。その時はお相手お願いしたいね。」



花「もちろん。いつでもお待ちしとります。桂先生...」



妖艶に微笑む花君をみて



桂は今度こそ襖を閉めた。