薫のお母さんは、薫を無事に産むまでに三回の流産を経験していた。
お母さんの体質にも原因があったらしいけれど、誰にもどうすることもできない理由だった時もあった。
流産を繰り返すたび、当然ながらお母さんもお父さんも悲しみ、その都度病院に通って原因を改善する治療を繰り返したらしい。
そしてようやく元気な産声とともに授かったのが薫。
薫の両親は、ちゃんと産んであげられなかった三人の赤ちゃんの分まで幸せにしなければいけないと思い、薫を大切に、そして一生懸命育てた。
『薫は一人で四人分の人生を背負っているのよ』
悪気はないだろうお母さんのそんな言葉を小さなころから聞かされていた薫は、自分自身の存在が四分の一の価値しかないのかと考えるようになり、それを苦しく思いながら育ってきた。
もしも、自分が生まれる以前に赤ちゃんが無事に生まれていれば。
自分はこの世にいなかったんじゃないのか……必要なかったんじゃないのか……。
そんな思いを抱えながら生きていた。
両親や周囲には、そんな負の感情を持っていることは悟られないよう、明るく振舞いながらも悩みながら日々を送っていた。
両親が自分を愛してくれるのは事実であり、それを裏切るわけにはいかない。
四人分の人生を生きなければ、と無理やり自分を叱咤しながらの日々はかなりつらかっただろうけれど。
『俺には璃乃がいたから、笑っていられたんだ』
照れることなくあっさりと言う薫は、甘い表情で私を覗き込むと、何度も唇を重ねてきた。

