それから。
私たちは気持ちを落ち着けるためにコーヒーを淹れた。
二人で暮らすようになって、一緒に選んだコーヒーメーカーがコポコポ音を立てているのを見るとほっとする。
乱れた服を整え、二人でリビングに落ち着くと、二人で照れたように視線を合わせた。
薫は、その足の間に私を置き、背中越しに抱きしめる。
一旦素直に気持ちを告げた途端、薫はその甘い見た目と態度で私の側から離れようとしない。
これまで一緒に暮らしていたとは言っても単なる同居人という距離感を守っていた薫の態度を考えれば、今こうしてその体温を感じられることは夢のようだ。
けれど、私のお腹の前で手を組んでいる薫の長い指先は、確かに私を優しく撫で愛情を与えてくれる。
夢ではない現実。
そう実感して、嬉しくて胸が痛くなる。
私も体を薫に預けたまま、心地よい脱力感を味わっていた。
「あ、その雑誌、見てみろよ」
「これ?」
さっきまで薫が見ていた雑誌を手にして中を見ると、ちょうど載っていたのは。
「あ、竜也お兄ちゃん?」
手渡された雑誌には、竜也お兄ちゃんが参加する仕事について載っていた。
建築士としてその名を知られつつある竜也お兄ちゃんは、数年前建築の仕事をしている者なら一度は受賞を夢見るといわれている「設計デザイン大賞」を獲り、さらに忙しい日々を送っている。
私が小学生で、まだ病院に通っていた頃には忙しい両親に代わって病院に付き添ってくれたこともある。
私と璃久を自分の子供のように可愛がってくれた竜也お兄ちゃんの笑顔が雑誌に掲載されていた。
今では奈々ちゃんというお姫様のようにきれいな奥さんと、やんちゃな子供たちも一緒に幸せな毎日を送っているけれど、最近はなかなか会っていなかった。
写真を見ていると、幼かった頃に竜也お兄ちゃんと奈々ちゃんと一緒にゲームをしたことを思い出して懐かしくなった。
見た目と違って男らしい奈々ちゃんにも久しぶりに会いたい。

