「はぁ・・・」


椅子に座って、一息つく。


「お疲れ様。紫苑。」


隣で微笑む、和泉くん。


「ありがとう、和泉くん。」


「・・・あのさ、まだ俺のこと和泉くん呼びなわけ?」


・・・それはあたしも考えていた。


でも、あたしの中の何処かで“楓くん”って呼ぶのを拒否してる。


「あたしの中では“和泉先輩”なところを、頑張って“和泉くん”って呼んでるんだけど?」


「マジかよ。もう旦那さんなんだけど?」


「もうすぐパパって呼ぶことになるので、ご安心ください(笑)」


そんな軽口を叩いていたところで、ノックが聞こえた。


「はい。」


「失礼します。」


聞こえた声があたしの心を震わせた。


あ・・・どうしよう。


泣きそう。


「おっ、来てたのかよ。もっと早く声かけてくれればよかったのに。」


和泉くんが笑う。


「声かければ、って簡単に言うなよ。出かけに菫(スミレ)がぐずってさ。」


見たくない。


子供の話をして笑ってる姿なんて見たくなかった。


ただ、苦しくなって、切なくなって、和泉くんのことが頭をよぎるだけだから。