「とってもおいしいです!
アッシュさんは本当にお料理がお上手なんですね!」

「……やだな、こんなのただ材料を切って入れただけじゃないですか。」

アッシュさんはそう言って、優しい笑顔で微笑んだ。



その晩は、普段では滅多に食べないような豪勢な具材を使った鍋料理だった。
アッシュさんはああ言うけど、私はそもそも出汁の採り方だってよくわからない。
それに、にんじんなんかは料理屋さんのものみたいにお花の形に切ってあるし、カニだって食べやすく切ってある。
こういうことはけっこうな手間だと思うし、私にはとてもうまく出来そうにない。



(それに、なによりこうやって皆で食べられるのが楽しい…)



二人は早速私の買って来たお箸を使ってくれている。
それを見るだけでも、私の胸はこんなに躍る。
それだけじゃない。
ただ、買い物をして来ただけなのに、二人は私のことをすごく温かく労ってくれた。
こんなにたくさん大変だったでしょう?とか重かったでしょう?と言って、アッシュさんは私のためにお茶まで煎れてくれた。
今までこんなことは滅多になかったから、私はなんだかくすぐったいような照れ臭いような気持ちになって…



(ずっと、こんな日が続けば良いのに…)



私は、そんなことを密かに夢見た。



「野々村さんもいかがですか?」

「えっ!?」

ふと見ると、アッシュさんが缶ビールを持って微笑んでいた。



「アッシュ、野々村さんはお酒は飲まれないんだ。」

「良いじゃないですか、少しくらい。
ね?野々村さん。」

「え…えぇ…」

アッシュさんがせっかくすすめて下さったんだから断るのも申し訳ない。
私は、グラスを出して少しだけ注いでもらった。



「あ、ありがとうございます。」

「野々村さん、無理に飲まなくて良いんですよ。」


そういって、青木さんは私の瞳をじっと見据えて、意味ありげに頷いた。
それが何を意味しているのか、私にはすぐにわかった。
お酒に弱い私が酔って、自分のあの能力のことを話してしまわないかと心配してくれてるんだと。



(大丈夫です。)

私はそんな心の想いと共に、ゆっくりと頷いた。