「じゃ、行って来ます。」

「いってらっしゃい。気を付けて。」



アッシュさんが買うものをメモに書いてくれた。
ひらがなが多いけど、とても綺麗でしっかりとした字で、とても外国の人が書いた物とは思えない文字だ。
スーパーに行くだけなのに、なんだか嬉しくて顔がほころんでしまう。
だって、二人が玄関まで見送ってくれたんだもの。
いつもとは違って、私には帰ったら出向かえてくれる人がいて、夕飯はアッシュさんが作ってくれて、三人で食卓を囲むことが出来る。
そのことが私にはとても幸せなことに感じられた。

メモを見ながら、売り場を見て歩く。
いつもはただ仕方なく行っていた買い物が、こんなにも楽しく感じられたのは初めてだ。



(靴下はどんなのが良いかしら?
青木さんは黒が多いから、靴下もやっぱり黒かな?
数日のことだから服はいらないっておっしゃってたけど…マイケルさんが持って来られたのは部屋着だけだから、一応、セーターも買って帰ろうか?
青木さんは、以前、ブランドにこだわりはないっておっしゃてたことがあるけど、普段から良いものを着てらっしゃるから、あんまり安物はだめね。
じゃ、やっぱり、部屋着の方が良いのかしら?
……どうしよう…
あ、そうだ…タオルも新しいのを買っておかなくちゃ。
食器はうちので良いのかな?
それとも、新しいのを買った方が良いかしら?)



めったに行く事のないメンズものの売り場で、私はそんな風にあれこれと迷いながら、結局は少し高級な部屋着を買った。
食器売り場も見てみたけれど、やっぱり食器まで買うと却って気を遣われてしまうかもしれないと思い、お箸とマグカップだけを買って、それから食料品を買いこんだ。
荷物は両手で持ちきれない程になり、それらを自転車の前かごと後ろの荷台に括り付け、それでも乗せきれない分はハンドルに下げて、よたよたしながら家路に着いた。
こんなにも大量の買い物をするのは、ものすごく久し振りのことで…重みでハンドルを取られそうになると、それがまた妙におかしくて…
こんなことで笑ってしまうなんて、どうかしてる…
そう…今の私はきっと少しどうかしてしまってるのだろう。



(こんな日々がすぐに終わることはわかってるのに…)



ふと、頭に浮かんだそんな想いで、気持ちはまた沈んだけれど…

ほんの束の間でも…いえ、たとえこれが夢だとしても…それでも、私は幸せだから。