「ま、まさか…そんなこと…!」



ちょうど食事を食べ終えた頃、マイケルが現れ、俺の代わりに今回の事の顛末を野々村さんに話して聞かせた。
野々村さんも、ワイドショー等ですでにあのことは知っていたようで、マイケルの話を聞いて目を大きく見開き、心底驚いた様子を見せた。



「信じられないでしょうね。
でも、本当のことなんです。
そうじゃなければ、こんな風に逃げ隠れたりしませんよ。」

「……そうですよね。
私も実を言うとそれが一番不思議だったんです。
こんなおめでたいことなのに、どうして青木さんは取材に答えられないんだろうって。」

「本当に結婚するつもりなら、多少、煩わしくても取材くらい受けますよ。
結婚どころか、俺と亜理紗はつきあってもいないっていうのに…」

亜理紗の話をするだけで、俺は胸の奥から沸沸と怒りが込み上げてくるのを感じた。



「えっ!でも、あの人は私にもはっきりと青木さんの彼女さんだっておっしゃいましたよ。」

「野々村さん、亜理紗と会ったことがあるんですか?」

「え…ええ…実は、打ち合わせの帰りに、あの人に引き止められて…
あの人は、青木さんが女性と会うためにパーティを抜け出したんじゃないかと思って、後をつけて来たとおっしゃってました。
でも、私を見て、そうじゃないとわかったようです。」

「あいつ…野々村さんにまでそんなことを…」



あいつのことだ。
きっと、野々村さんを馬鹿にしたような失礼な言い方をしたんだろう。
その時の亜理紗の高慢な顔つきがありありと目に浮かぶようだった。



「野々村さん、本当に亜理紗は俺の彼女でもなんでもないんです。
そりゃあ……彼女との間に何もなかったとは言いませんが、それはただの遊びで……彼女もそうだと思ってた…」

「遊び……」

そう言って口をつぐんだ野々村さんの視線は、俺を軽蔑しているような…そして、非難しているように感じられ、俺はそっと顔を伏せた。
今までの俺はそんなことに罪悪感を覚えたこともなければ、特に重要なこととも考えていなかった。
なのに、なぜ、俺は野々村さんの視線を避けてしまったのか…
俺にはその理由がよくわからなかった。