「あ、あそこだよ!
まさか、一人暮らしの野々村さんが一軒家に住んでるとは思わなかったよね。
おかげで助かった。」

「……でも、本当に大丈夫なのか?
女性が一人で住んでる家に、俺達みたいなのが転がり込んで…」

「大丈夫だよ。
マイケルがちゃんと話はつけてくれてるんだから。」



野々村さんの家は、都心から少し離れた郊外の静かな一角にあった。
駐車スペースもあるし、家がさほど密集していないから、身を隠すには確かに好都合だ。
俺達は、マイケルから連絡を受け、念の為、暗くなってから野々村さんの家を訪ねた。



「こんばんは!」

「い、いらっしゃいませ!」



扉を開けると、いつもより少しくだけた感じの服装をした野々村さんが、緊張した面持ちで立っていた。



「すみません、野々村さん、ご迷惑をおかけして…」

「い…いえ。
と、とにかく中へどうぞ!」

野々村さんに促され、俺達は居間へ通された。



「……えっと…ご、ごはんは…」

「まだです。
一応、弁当を買って来ました。
一緒に食べましょう!
野々村さんもまだでしょ?」



アッシュがそう言って、レジ袋をテーブルの上に置いた。
本当ならどこかで食べて来たかったのだけど、誰が見ているかわからない。
野々村さんは、以前、あんまり料理はしないようなことを言っていたから、途中の弁当屋でアッシュに買って来させた。



「あ、ど、どうもすみません。
実は、私もさっきお弁当を買ってきたんですよ…」

「じゃあ、あまったのは明日の朝にでも食べましょう!」

「そうですね!
そうしましょう!」



アッシュは買って来た弁当やお惣菜をテーブルの上に広げ、野々村さんは温かいお茶を煎れてくれた。



「明日からは僕が作りますからね!」

「え…あ…はい!」

「野々村さん……先に言うべきでした。
この度はご迷惑をおかけして本当に申し訳ありません。
おかげで助かりました。
なるべく早く出て行きますから…少しの間だけご厄介にならせて下さい。」

俺は食事の手を止め、野々村さんに頭を下げた。



「や、やめて下さい!
私、迷惑だなんて思ってませんから。
ご事情はわかりませんが、こんな所で良かったらいつまでもいて下さい!」

野々村さんは、何も悪くないのに何度も何度も俺に向かって頭を下げた。



「野々村さん、いつまでもはいませんよ。
すぐに片が付きますから。」

アッシュが苦笑しながらそう言った。
俺も思わず釣られて笑いそうになったが、下を向いて誤魔化した。