「しばらくは車の中で過ごすことになりそうだな…」

「大丈夫だよ。
マイケルが、今、どこか探してくれてるから。」

「だけど…このあたりのホテルではすぐにみつかるだろうし、知り合いの家といっても難しいよな。
迷惑をかけるのはいやだし。
かといって、マイケルだけを残して遠くに逃げるって言うのもな…
だいたい、俺達は何も悪いことはしてないのにどうして…」

アッシュが口元に人差し指を立てて片目を瞑った。



「愚痴っても仕方ないよ。
とにかく、マイケルに任せておけば大丈夫だから。」

アッシュはそう言って、日本人よりも器用な箸遣いで卵焼きを口に運ぶ。



「マイケルのこと…すごく信頼してるんだな。」

「……まぁね。
彼にはこれまでにもいろいろと助けられたことがあるから。
彼は、本当に優れた人間なんだ。
カズはそう思わない?」

「……確かにそうだな。」

マイケルが頼りになる奴だということも、優秀な人間だということもよくわかっている。
ただ、だからと言って、厄介なことを押し付けて良いわけはない。
それも、仕事のことならともかく極めてプライベートな問題だ。
マイケルだけに限らず、女とのトラブルで周りの皆に迷惑をかけてしまったことが、俺はとても心苦しかった。




(ちょっと前まで美幸の恋愛のことを心配してたっていうのに、俺がこんなんじゃどうしようもないな…
まさか、こんな年になって、こんな問題を起こしてしまうなんて思ってもみなかった。
……そういえば、父さん達ももう知ってるんだろうか?
芸能人の話題には、二人共それほど興味はなさそうだけど…)



昨夜はテレビも見なかったし、ネットも見なかったから、俺と亜理紗のことがどの程度話題になってるのかはわからない。
ただ、今朝の雰囲気を見ると、それなりに広まってるような気もする。



(あ……)



「アッシュ、あの週刊誌は…」

「僕も気になって探してみたんだけど、今はまだ出てなかった。
でも……もうしばらくしたら並ぶと思うよ。
後でまた見てみるね。」

明るい声でそう答えるアッシュに、俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。