「カズ、とりあえず食べようよ。」

アッシュはそう言って、コンビニで買って来た弁当とお茶を俺に手渡した。



「ほらほら。そんな怖い顔しないで…」

「別に怖い顔なんてしてない。」

俺はそう答えながら、弁当の包みを開け、おかずを頬張った。



まさに悪夢だった。
職場に、突然、リポーター達が押しかけた。
俺はたまたま外にいたから、マイケルが応対に出て、何が起こっているのかを知った。
マイケルは機転を利かせ、アッシュを迎えに寄越してくれた。
そこで俺はアッシュからだいたいの話を聞き、亜理紗の罠にまんまとはめられたことに気付いた。
彼女のブログには嘘八百が並べ立てられ、俺は思わずパソコンの画面を殴り付けたい衝動にかられた。



(よくもこんなことを…)



俺はすぐに亜理紗に電話をかけたが、仕事中なのかわざとなのか、亜理紗は電話に出ることはなかった。
家の方にも当然取材が来るだろうから戻らない方が良いとマイケルから連絡を受け、俺とアッシュは目立たないように少し寂れたビジネスホテルに宿を取った。
夕方、マイケルから電話があり、今日のワイドショーで俺と亜理紗のことが放送されたとのことだった。
明日には写真週刊誌が出る。
マイケルからしばらくは身を潜めておくように、そして、亜理紗にも連絡はしないようにと言われ、俺は悶々とした気持ちで時を過ごした。
俺は何も悪いことはしていない。
なのに、どうしてこんな風に隠れなければいけないのか?
激しい憤りを感じたが、今はどうすることも出来ない。
せいぜいアッシュに愚痴をぶつけるくらいのことだ。
マイケルは、自分がなんとかするようなことを言っていたが、そういうわけにもいかない。
俺はすぐにでもリポーター達の前に出て、あれは亜理紗の嘘だとぶちまけてしまいたかったが、それはアッシュにも強く止められた。
確かに、これほど感情的になってる時に、怒りに任せて言いたい放題言ってしまうのは良くないとは思う。
きっと、俺の言い分は信じてももらえないだろう。
そんなことは十分わかっていながらも、その怒りを静めるのはそう簡単なことではなかった。
どうにかこうにかその晩をやり過ごし、次の日の朝、朝食バイキングに向かった時、俺はどうも従業員や他の泊り客の視線が気になった。
外国人で、しかもイケメンのアッシュが一緒にいたせいかとも思ったが、どうもその視線はアッシュではなく俺に向けられている気がする。



「カズ…ここは出た方が良さそうだね。」



アッシュもそのことに気付いた様子で、俺達は支払いを済ませ早々にホテルを離れた。