(……えっと……)

お茶でも飲んで落ち着こうと思い、急須に伸ばしかけた手が不意に停まった。



私はなぜこんなにも動揺してるんだろう?
青木さんがあの人と付き合ってることは知ってたし…だったら、こんなことだって当然ありうる…
そんなことよりも、青木さんが結婚することなんて私には関係ない…いや、お世話になってた青木さんが結婚することは喜ばしいことだから、素直に祝ってあげれば良いだけのことなのに…



(……そっか…わかった…
仕事上の関係とはいえ、知ってる人のことがテレビで放送されることなんてめったにないことだから、それで私はびっくりしてるだけなんだ、きっと。)



私は、うんうんと何度も頷きながら、急須にお湯を注いだ。



「あつっ!」


何をぼーっとしていたのか、お湯は急須に添えていた私の手を直撃した。
私は慌てて台所に走り、冷たい水で手を冷やす。



(……何やってんだろ、私…)



どんなに言い訳を考えようとしても、私の心は本当のことを知っている、
……悲しいんだ。
青木さんが結婚することが、私はたまらなく悲しいんだ。
それは認めたくないことだけど……
涙が込み上げそうになった時、家の電話が鳴り、私は反射的に蛇口をひねった。
そして、手を拭くのもそこそこに電話の元に走った。



「はい、野々村です。」

私は出来る限り平静を装い、明るい声で電話に出た。



「あ、野々村さん?ボク、マイケルです。」



電話の相手はマイケルさんだった。
今はちょっと詳しいことが言えないけど、とにかく今日からしばらく青木さんのブログをストップしてほしいとのことだけ言って、電話はすぐに終わった。
きっと、結婚の会見の準備かなにかで忙しいんだろうと思う。
そういえば、青木さんのブログは、以前、何か悪質な書きこみがあったとかでコメントは出来ないようになってるけれど、メッセージは送れるようになってるから、きっと今頃は数え切れない程のお祝いメッセージが届いているはず。



(私も送った方が良いのかしら?
それとも、やっぱり正式な発表を待った方が…)



そんなことを考えると、それだけで私は鼻の奥がつんと熱くなった。