「ありがとう、カズ。
大切にするわ!」

そう言って、彼女は自分の指をみつめながら満足げに微笑んだ。



会って早々、亜理紗はほしいものがあると言って、俺を宝石店に連れ出した。
元々、何かプレゼントをするつもりだったからそれは良いのだけれど、この前のことを詫びた途端、彼女は店が閉まるからと俺の腕を引っ張って有名な宝石店に向かい早足で歩き出した。
別れると決めたらこんなにもすぐに物欲に走れるものなのかと、俺は彼女のドライさにいささか驚きながらも、どこかほっとした想いを感じていた。
だが、彼女が選んだものは俺が考えていたよりもずっと高価なダイヤの指輪だった。
いくらなんでも高過ぎる。
そう思い、他のものをあれこれとすすめてみたが、彼女は頑としてそれを手放そうとはしない。
店員の手前、あまり長い間もめるものみっともないし、ここで彼女の機嫌を損ね、また付きまとわれることになっても困る。
俺は、諦めてそれを買うことにした。



(ずいぶんとふっかけられたもんだ…)



これからはもっと慎重に行動しなくてはならないと自分を戒めながら、俺はサインした。

しかし、その指輪のお陰で彼女のご機嫌はすっかり回復した。
その後、向かったレストランでも始終彼女は上機嫌で、もうじき始まるドラマの撮影のことなどを嬉しそうに話していた。



「これでますますおまえの人気も上がるだろうな。」

「だと良いんだけど…
でも、私、演技にはけっこう自信あるのよ。
最近、ドラマってどれも視聴率が伸び悩んでるみたいだけど、このドラマはきっとヒットするわ。
台本読んでてそう感じるの。」

「そうか…それは良かったな。」



仕事が忙しくなれば、彼女も俺のことなんてすぐに忘れるだろう。
いや、すでにもう俺なんかに未練はなさそうだ。
彼女なら、きっとすぐに新しい恋人をみつけ、楽しくやっていくことだろう。

食後に、雰囲気の良いバーで軽く飲み、とても和やかな時間を過ごすことが出来た。
いつもこんな感じなら、彼女とももっとうまく付き合えたかもしれないのに…
ふと、そんなことを考えてしまった自分自身に俺は苦笑した。