それから数日の間、亜理紗のことが気になりどこか落ち付かない気持ちを抱えてはいたが、仕事が忙しいことで、それ程深く考えこむこともないままに日々は過ぎて行った。
やっぱり、先日の俺の冷たい態度に愛想を尽かしたんだと安心しかけた頃、思いがけず亜理紗から電話があった。
やけに神妙な声で、これからは良い友達としてつきあってほしいというようなことを言われ、仲直りのために食事をしようと持ちかけられた。
あの勝気な亜理紗の言い分にしてはどこかあやしいと感じる気持ちはあったが、もしも、それが本心だったらせっかくのチャンスを不意にすることにもなりかねない。
ちょうど、仕事も一段落した所だったから、夜は時間もあった。
亜理紗にうまいものを食べさせて、先日のお詫びの印になにかちょっとしたアクセサリーでも贈っておくかと考えていた時、マイケルが唐突に口を開いた。



「カズ、最近、野々村さんと連絡は取ってるのか?」

「いや…ここんとこ忙しかったから、メールもしてない。」

「……そのせいか…」

マイケルは、パソコンの画面をみつめながら何度も頷いた。



「なにがだ?」

「また見てないんだな?
ほら…カズのブログ…」

マイケルに促されるまま、俺は彼のパソコンをのぞきこんだ。
それは、見慣れた俺のブログのページだったが、マイケルが言いたいことはすぐにわかった。



「……どうしたんだろう?
何か、いつもの野々村さんとちょっと違うな。」

「カズもそう思うかい?
やっぱりそうだよね。
何て言ったら良いのかわからないけど……たとえば、ほら、ここの言いまわし。
ちょっといつものカズとは違うよね。
他所行きのカズっていうのか…
どうしたんだろうね?野々村さん、体調でも悪いのかな?」

確かにマイケルの言う通りだった。
本当の俺を知らない者ならもしかしたら何も感じないかもしれない。
その程度の些細なことではあったけど、今までの野々村さんの書いたものをずっと読んできた俺達にはその微妙な違和感がはっきりと感じられた。



「今夜…と言いたいとこだけど、今夜は亜理紗に会うから、明日、野々村さんに連絡してみるよ。」

「やっぱり会うことにしたのかい?」

「まぁな…」

「なにか彼女の喜ぶものでも買ってやんなよ。
ちょっと値の張る物をね!」

マイケルはそう言って、片目を瞑って見せた。



「……そうだな。そうするよ。」