(誰だ?こんな時間に…
もしかしたら、野々村さん?)

用事も終わり、そろそろ帰ろうかとあたりを片付けていた時、不意にチャイムの音が鳴った。



「はい。」

「カズ!開けて!
私!亜理紗よ!」

「亜理紗…?」

その声を聞いた途端、俺の眉間には深い皺が刻まれた。
亜理紗は、最近めきめきと頭角を現して来た若手のモデルだ。
何を思ったのか、彼女は一回り程も年上の俺に関心を持ったらしく、猛烈なアタックをかけて来た。
彼女の積極的な誘惑に押され、何度か身体を重ねたことはあったが、それはただの遊び。
愛情が絡んだものではなかった。
当然、彼女の方もそうだと思っていたのだが、最近の彼女はなんだか様子がおかしい。
今日のパーティでも俺の傍にずっとくっつき、彼女の目を盗んで苦労してようやく抜け出して来たというのに、その彼女がなぜここに…



「カズ、早く開けてよ!」

亜理紗は扉をどんどん叩く。



「やめろよ、今、何時だと思ってるんだ。
近所に迷惑だろ!」

俺は文句を言いながら、仕方なく扉を開けた。



「カズがすぐに開けてくれないからでしょ!」

亜理紗は入る早々、俺の首に腕をまわし、柔らかな唇を押し当てた。



「……何?その迷惑そうな顔…」

「言った筈だ。
俺は、今日は大切な仕事があるって。」

「ふ~ん…」

亜理紗は蹴散らすように靴を脱ぐと、俺を押し退け部屋に押し入った。
すでにパソコンの電源を落としていたから良かったようなものの、それでもそんな風にズカズカと立ち入られるのは不愉快だった。



「狭いのね…」

「当たり前だ。
仕事の打ち合わせなんかに使うだけなんだから。」

「でも、ベッドはあるのね…」

「最初からついてるからな。」

亜理紗はベッドを一瞥すると、満足した顔でソファに腰を降ろす。



「仕事っていうのは本当だったみたいね。」

「疑ってたのか?」

亜理紗は言いありげな微笑を浮かべた。



「だって…あなたはプレイボーイだもの。
もしかしたら、私の他にも女がいるんじゃないかって思って…」

亜理紗の口からプレイボーイなんて古い言葉が飛び出たことが妙におかしかった。
しかし、そんなことよりも、まるで俺を自分の彼氏のように考えていることが腹立たしく感じられた。



「だから、俺の後をつけたのか…」

「まぁね…
部屋に女でも待たせてるのかと思ってたら、あんなおばさんが出て来たからびっくりしたわ。」

「……彼女は仕事上のパートナーだ。」

「あなたのことだから、あんなおばさんでももしかしたら…ってちょっと思ったけど…
さすがにそんなことはなかったみたいね。」

そう言って笑う彼女に、俺はますます強い嫌悪感を抱いた。