「本当にどうもありがとうございました。」

「いえ、そんな…
では、また新しいものが出来あがったら連絡します。」

私は、青木さんに挨拶をして、そそくさとその場を立ち去った。
今日の青木さんはきっちりしたおしゃれなスーツ姿だったから、いつもよりもさらに素敵で、恥ずかしくてまともに顔が見られなかった。



(私、挙動不審になってなかったかな?
変な態度取ってなかったかな?)



「ちょっと…」

不意に腕を掴まれて、私の肩はびくっと波打った。



「は、はいっ!」

私の腕を掴んでいるのは、まだ二十代と思しき女の子だった。
ふかふかの毛皮のコートをまとって、小枝のような細く長い脚を惜しげもなく出している。
その派手な雰囲気は、水商売かモデルといった感じに見えた。



「あんた、今、カズと会ってたでしょ!?
あそこは誰の家なの!」

「え……えっと……」



どうしたら良いんだろう?
彼女は、きっと青木さんの知り合いで、私があの部屋から出て来る所を見て…
いや、そうじゃない。
青木さんはパーティの途中で抜け出して来たとか言ってたから、この人はきっとその後をつけて来たんじゃないだろうか。
そして、じっと外で待っていた…



「なんで黙ってんのよ!」

「……し、仕事上の秘密に関わりますので…」

「仕事……」

女性は、私のことを嫌な目つきで上から下までじろじろと眺めまわした。



「……確かに、カズがあんたみたいなおばさんを相手にするとは思わないけど…
念のため聞くけど、本当にカズとは仕事で会ってたのね!?」

「も…もちろんです。」

私がそう答えると、女性の表情がようやく緩み、掴んでいたその手も離された。



「……ごめんなさい。
なんせカズは女癖が悪いから、パーティを抜け出したのもまた女の所じゃないかって、つい気になっちゃって…」

そう言うと、女性ははにかんだような笑みを浮かべた。



「じゃあ、あなたは青木さんの…」

女性は満足げに微笑み、ゆっくりと頷いた。



「そう、カズの彼女の亜理紗。」

「そ…そうだったんですか。
ご、ご心配なく。
私は、青木さんに頼まれて仕事をしているだけですから。
では、失礼します。」

私は頭を下げ、早足で逃げるようにその場を後にした。
なぜだか、心の中がとても苦しくて…
地下鉄で帰るつもりだったけど、眩暈のようなものを感じ、私は手を挙げてタクシーを拾った。