(美幸の奴…何、馬鹿なことやってんだ…)



その後も俺と野々村さんはほぼ毎日ウィークリーマンションで落ち合うようになった。
少しずつ明かされる美幸とシュウの生活に、俺はやきもきさせられた。



「なんだか少しややこしい雰囲気になって来てますね。」

「……本当になんて馬鹿なんだ。
こんなことで誤解して…その上、なんで他の男とつきあおうなんて考えるんだ…!意味がわからん!」

美幸は、シュウが喫茶店の女の子と浮気しようとしてると勝手に勘違いしていた。
そのことで悩んだ美幸は、何を血迷ったのか他の男とつきあうことを考え始めている。
シュウの気持ちを自分に向けるためというのならまだわかるが、自分には男性に対する免疫がないからちょっとしたことでも悩んでしまうんだと考えて、今から免疫をつけようとしている。
そんなことをしたら、ますます事態がこじれるであろうことを美幸はなぜわからないのかと、俺は苛立った。



「で、でも、美幸さんは美幸さんなりに一生懸命考えられたんだと思いますよ。
大丈夫ですよ。
きっと、こんなことでシュウさんと美幸さんの仲は壊れたりなんかしませんよ。
また今夜も頑張って書きますから、待ってて下さい。」

「取り乱してしまってすみません。
あまりにもあいつが馬鹿だから腹が立って…
あいつももう24だっていうのに、なんでこんなことくらいでおたおたするんだろう…」

「……女性は、きっと誰だって、いくつになったって、好きな人が浮気してる気配を感じたら、心配になってしまうもんだと思いますよ。」



野々村さんの言葉に俺は意外なものを感じた。
失礼ながら、今の野々村さんは恋愛には無縁のように見えるから、野々村さんの口からそんな言葉が出たことに違和感を感じてしまったのだろうが、野々村さんにも恋愛経験がないはずはない。
きっと若い頃にはそういうこともあっただろうと思う。



(俺って、本当に失礼な奴だな…)



「すみません、野々村さん。」

「……えっ!?
何がですか?」

「えっ!?……あ、あぁ、美幸のことで愚痴みたいなことを言ってしまったので…」

俺は、心に思ったことをつい言葉にしてしまい、咄嗟にその場を取り繕った。