「その話はもう…
……私、まだそのことが消化出来たわけではないんですが、でも……
少しでも青木さんのお役に立てるなら……とても嬉しいです。
私…この能力のことを話したことはほとんどありませんし…
相手を信頼して話しても、信じてもらえなかったり気味悪がられてばかりだったのに、青木さんは信じて下すった。
私…そのことがとても嬉しかったんです。
ですから、私に出来ることはなんでもやらせて下さい!」

「ありがとう…野々村さん…」



俺にはそうとしか言えなかった。
心の中には言い尽せない程の感情があるというのに、俺の口を吐いて出たのはそんな短い言葉だった。
彼女のおかげで、今まで片時も俺の心から離れることのなかった悩みが解決しようとしている。
完全な解決にはまだ時間がかかるのかもしれないが、今までは一歩も前に進まなかったことが、今、大きく前に進もうとしている。
深い闇の中に小さいけれどはっきりと希望の光が灯るのを感じた。



「これをいただいたら、またすぐに取りかかりますね。」

「野々村さん、無理しないで下さい。
たった三日でこんなに打ちこむのは大変だったでしょう。
それに、俺にはよくわかりませんが、こういう脳力を使うと疲れるんじゃないですか?
今夜はゆっくりしましょう。」

「いえ、全然平気です!
私、こう見えても身体はけっこう丈夫なんですよ。」



そう言うと、野々村さんは話してる間に少し冷めたピザを頬張り始めた。



(痩せてはいるけど、確かにいつも食欲はあるようだな。
これからは、栄養のあるものでも差し入れるか…)



「野々村さん、普段は自炊なんですよね?」

「え…?
は、はい、一応、そうなんですが…料理は苦手なので、せいぜい炒めたり煮たりする程度ですね。」

「料理はお嫌いなんですか?」

「……はい。」



まるで叱られた子供のように俯いた野々村さんの様子に、俺は失笑した。
三日でこれだけの仕事をするには、相当の集中力が必要なはずだ。
家事等には、時間をかけられるはずも無い。
これからはなるべくうまいものを買って来てやろうと俺は考えた。