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「カズ、またブログ書いてないだろ。」

「ブログ?
あ……あ、最近、ちょっと忙しくて……」

「カズ、忙しいのは皆同じ。」

俺の愛想笑いを無視したアッシュの厳しい言葉に、俺は何も言い返せなかった。
確かにその通りだ。
皆、忙しい合間を縫って、本業以外のこともよくやってくれている。
メディアの取材に関してはいつもアッシュとマイケルに任せっぱなしだし、その分、俺は雑誌の連載エッセイとブログは書くと約束したのに、ブログはこのところほとんど放置していた。



「すまん、アッシュ。
明日から頑張るよ。」

アッシュは俺の言葉に人差し指を立て、舌を鳴らす。



「カズ、その言葉は聞き飽きた。
ブログなんて…って思ってるかもしれないけど、けっこう楽しみにしてくれてる人は多いんだ。
それに、多くの人の目に触れる我が社の宣伝の場でもあるし、ビジネスにも直結してるんだからな。」

「……わかってるよ。
だから……」

「STOP!」

アッシュは、片手を俺の前に差し出して俺の言葉を制した。



「実はもうマイケルと相談してライターを頼んである。」

「ライター?ブログ用のライターを雇ったっていうのか?」

「あぁ…でも、ブログ用じゃなくて…言ってみれば、もう一人の君さ。」

「もう一人のって…まさか、ゴーストライターを雇ったってんじゃないだろうな!?」

「……その通りだ。」

「そんな!……俺、そういうのはなんかやだな…」

「きっとそういうと思ってたよ。
でも、彼女はそこいらのライターとはちょっと違うから。」

ブログを書かなかった俺が悪いのだから、文句は言えないかもしれないが、それでも、誰かが俺の影武者をやることには抵抗があった。
イベントの告知みたいなことなら書いてもらっても構わないが、プライベートなことを誰かが俺のふりをして書くなんてどうにも気持ちが悪い。
でも、彼らはもうそのライターを雇ってしまったという。
何度言われても同じことを繰り返してしまった俺が悪いんだ。
いやでも、撤回させることはもう出来ない。



「もうじき、ここへ来るから紹介するよ。」

「……良いよ。
適当にやってもらってくれ。
俺、用があるから出掛けて来る。」



俺は、身支度を整え、部屋を後にした。
出掛ける時間にはまだ二時間も早かったけど、そんなライターに会いたくなかったから。