「シュウーーー!」

賢者が店に入るのと入れ替わるようにして、ここあちゃんが飛び出して来た。



「あれ…?どうかしたの?」

「これ…ひかりさんにお土産!」

そう言って、ここあちゃんは俺の目の前に小さなケーキの箱を差し出した。
俺がひかりと一緒じゃない理由を聞かれたから、今日は、ひかりは読みたい本があるらしくて来なかったということにしておいたんだ。



「ありがとう。
ひかりが喜ぶよ。」

「実はね……」

ここあちゃんは背伸びをし、俺にかなり密着した感じで耳元に囁いた。



「シュウが来てくれるとね、ハヤト君が妙にやきもちを焼くのよ。
この前、シュウ達が来てくれたあの日の晩も…ハヤト君、ものすごく燃えちゃって…」

そう言って、ここあちゃんはおかしそうに笑い、肩をすくめた。



「ここあちゃんは悪い子だな…
ははぁ~ん、ハヤト君が店の中から見てるのを知って、わざとこんなことするんだな?」

ここあちゃんはぺろっと赤い舌を出した。



「私はハヤト君一筋だけど、やっぱり刺激があった方が楽しいじゃない。
この世界にはハヤト君がやきもちを焼くような男性はいなかったせいか、シュウが来たことでハヤト君があんなに焼くなんて意外だったわ。
……今夜もきっとハヤト君はりきっちゃうわね。」

「ヤキモチ焼き過ぎてトラブルにならないのか?」

「そのあたりはちゃんと考えてるから大丈夫!」

ここあちゃんは悪戯っぽい顔をして片目を瞑った。
可哀想に、ハヤト君はここあちゃんの手の平でうまく転がされてるんだな。
そんなことを考えると、俺の頬は思わず緩んでいた。
ここあちゃんの表情があまりに可愛いかったこともあったかもしれない。



「ほどほどにしとけよ。」

その時、ドアが開いてケーキを持った賢者が出て来て、その後ろではハヤト君が目を吊り上げて俺達を見てた。




「わかってるって。
じゃあ、シュウ、また来てね!」

ここあちゃんは俺の腕に絡みつき、俺を見上げてそう言った。



(まったく…困った奴だな…)



賢者は賢者で、なんともいえない表情で俺を見てる。
ひかりにおかしな風に告げ口しなきゃ良いけど…かといって口止めするのもおかしい。
俺は別に悪いことはしてないんだから。



「じゃ、帰ろうか。」

「うむ。」

何事もなかった顔をして、俺は賢者と共に歩き出した。