「これこれ、なんという目つきをするんじゃ。
冗談じゃないか、じょう~だん!」



賢者はおどけた口調でそういうと、子供みたいな笑顔を見せた。
……こいつ、こんなんで本当に賢者なのか?
俺は、ひかりのセンスを疑った。



「さて、と。
そろそろ帰るか。
あんまり遅くなったら、ひかりが心配するかもしれんからな。」

「そうだな…
……とにかく、これからも、何か良い案がないか考えておいてくれよ。」

「それはもちろんじゃが…
しかし、本当にそれでええのか?
もしも、そんなことが出来るとしても…その時、おまえさんも一緒に行けるとは限らん…いや、おそらくそれは不可能じゃ。
それはすなわち、ひかりと別れるってことになるんじゃぞ。」

「……良いんだ。
俺は、最初からそのつもりだったんだから。
ひかりとはもう会わないつもりだった。
だけど…こんなことになってしまった。
ひかりと一緒にいられるのは俺にとっては幸せなことだけど…だけど、それは正しいことじゃない。
ひかりにとっても幸せなことではないと思うから。」

賢者は俺の顔をじっと見て……そして、ふっと頬を緩めた。



「……青春しとるのう。
好きな女のためなら、自分のことは犠牲にするか……
少し格好良過ぎるんじゃないか?」

「……青春なんて年じゃないさ。
でも、あれから何年経ったのかはよくわからないけど…ひかりの容姿は確かに少し大人になった。
俺はあの頃と何も変わらない。
そのうちに、ひかりの容姿は俺を追い抜く。
……俺は良い。
そんなこと、全然気にならない。
見た目がどんなに変わったって、ひかりはひかりなんだから。
だけど、ひかりは……きっとそのことを引け目に感じるだろうし、この世界で自分一人が年を取る事に恐怖を感じるかもしれない。
俺は、ひかりにそんな想いをさせたくないんだ。」

そのことを話してるだけで、俺の気持ちは暗く沈んだ。
わかっていても…納得してるつもりでも、やっぱりそれを言葉に出して再認識すると辛い。



「わかった、わかった。」

賢者は立ちあがり、俺の肩をぽんと叩いてそのままレジに向かって行った。
残念なことにここあちゃんは接客中で、レジを打ってくれたのはハヤト君だった。
彼がなんとなく俺のことを避けているような印象を受けるのは気のせいだろうか?




「あ……」

店を出た所で、賢者が急に声をあげた。



「そうだ。家で食べるケーキを買うのを忘れてた!」

「おいおい、まだ食べるのかよ。」

賢者はそれには返事をせず、またすぐに店の中に引き返して行った。