「野々村さん、おはようございます。
今、メールをいただきましたが、何か、急用ですか?」

「あ、おはようございます。
青木さん……今、話してて大丈夫ですか?」

「ええ、今は一人ですから大丈夫ですよ。」

「あ、あの…美幸さんのことなんですが…」

「美幸のこと…?
あぁ……今夜、来ていただけるんですね?」

「え…?」



何か様子がおかしかった。
いつもの青木さんならきっと真っ先に美幸さんのことを訊ねられる筈…でも、そんな素振りはなくとてものんびりとした雰囲気で…
なんだか急にいやな胸騒ぎが広がった。



「あの…今夜って…」

「いやだな、野々村さん…先日言ったじゃないですか。
美幸の歓迎会…なんていうと大袈裟ですが、内輪の食事会をするって言ってたでしょう?
あれですよ。
予定通り、昨夜美幸が来ましてね。
着くのが割りと遅い時間だったので、歓迎会は今夜ってことにしたじゃないですか。
だいたい7時くらいからにしようかと思ってるんですが、家には誰かいますから少しくらい早くてもかまいませんよ。」

「み、美幸さんが……」

私は、それだけ言うのが精一杯だった。



(やっぱり、美幸さんはこっちの世界に戻ってた。
って、ことは…美幸さんが小説の世界に行かなかった五年間がここでは過ぎているということ?
一応、青木さんは私のことは覚えて下さってるみたいだけど、何がどう変わってしまったんだろう?)



携帯を持つ手がぶるぶると震えた。
そして、なによりも不気味だったのは、私はすべてを覚えているということ。
美幸さんがシュウさんと小説の世界に行ったことも、そこで起きた様々なことも、私ははっきりと覚えてる。



(どうしよう…)



「野々村さん、どうかされましたか?」

「い、い、いえ、何も…」

「それじゃあ、お待ちしてますね。
では……」

「は、はい……」



私は、不安に押し潰されそうになりながら、携帯を握り締め、呆然とその場に立ち尽していた。



…à suivre