「あるにはある……」

「え…!?」

あまりにも意外な賢者の返答に、俺は一瞬、言葉を失った。



「で…でも、以前、あんたは言ったじゃないか。
あの門を動かすにはとても大きな力が必要で…だから、動かせないんだと…」

矛盾していた。
門を動かすことは出来ないかと訊いておきながら、俺はまるでそんなことは無理だという答えを期待してたみたいで……



「おまえさん達にはないと言うたが…本当はその力はあったんじゃ。
ただ…それは…とても辛いことで…その……」



賢者の様子が俄かに落ち付かないものに変わった。
いやな胸騒ぎはどんどん大きくなっていく。



「な、何なんだよ!
その力って……!
は、早く言えよ!」

「シュウ……」

「……頼むから言ってくれ!」

懇願する俺に向かって、賢者はゆっくりと頷いた。









「そ…そんなこと……」

「わかったじゃろう?
わしが言わんかった理由が…
シュウよ、今の話は忘れるんじゃ。
今は二人共辛いじゃろうが、ひかりのことはわしがちゃんと面倒をみるから、安心せい。
ひかりがもう少し落ちついたら、またおまえさんとも会えるようになると思う。
たとえ一緒に暮らせんでも、こんな近くに住んどるんじゃ。
会おうと思えばいつだって会えるからのう。
さて、と…では、今日はこれで帰るとしよう。
おまえさんもあまり考えこまんようにな。」

「あ…あぁ……
あ、そうだ!じいさん、これ…ひかりに返してやってくれ。」

俺は、ひかりの携帯を賢者に手渡した。



「わかった。
間違いなく渡しておこう。
じゃあな…」

手を振り、去って行く賢者の後姿を目で追いながら、俺はさっきの賢者の話を考えていた。