「だから、別れた方が良いのではないかと言うておるんじゃ。
雅樹とのことがあって、おまえさんも一度は別れを考えたじゃろう?
それで良いのではないか?
ひかりのことは、わしが責任をもって守る。
……時が経てば、また友達として笑って話せるようになるかもしれん。
もちろん、わしも様子を見ながら少しずつ説得はしてみるが、それにはきっと長い年月がかかると思うんじゃ。」

賢者の顔はいつになく真面目なものだった。
説得するとは言ってるが、きっとそれが見込みのないことだとわかってるに違いない。
賢者は、ひかりを本気で守ろうとしているんだろう。
異世界から来たひかりをこれ以上、傷付けまいと…

賢者の気持ちはとても嬉しい…でも、俺は……
ひかりのことを考えるなら、やはり、俺は身を引くしかないのか…!?



(こんなことなら…こんなことなら、あの時……)



「……時にシュウよ…おまえさん、もしも、設定がなかったらひかりのことを好きになってたと思うか?」

「え……そ、そんなことわかるわけないだろ!」

「そりゃあ、そうじゃな。
つまらん質問をしたな…
……ひかりは、ここへ来たこと自体を後悔しておるようじゃ。
昨夜も、わしに聞くんじゃ。
元の世界に戻れる方法はないのかと…」

「……ひかりがそんなことを……」



まさに俺が今考えていたことだった。
あの時、ひかりがこの小説の続きを書かなければ…
そしたら、ひかりはあのまま元の世界でごく普通に生きられて…
俺は、戸籍がなくても…たとえ年を取らなくても…それなりになんとか生きられたと思う。
生きられなかったとしても俺は後悔なんてしなかった…
なのに……



(そうだ…ひかりが俺と別れるなら、この世界にいるよりも元の世界に戻った方が良い。
そしたら、ひかりが年を取る事もごく当たり前のことになるし、何の問題もなくなるんだ…)



「なぁ、ひかりを元の世界に戻す事は……あの門を動かすことは本当に無理なのか!?
なにか見落としてることはないのか?」

賢者は俯いてじっと何かを考えている様子で、何も答えなかった。



「聞いてるのか!」


声を荒げた俺に、賢者がゆっくりと顔を上げた。