「なんでだよ!
なんでひかりは戻って来ない!?
あんた、本当に説得してくれたのかよ!」

賢者と会ったのは、あれから二日後のことだった。
次の日は、今日は出ていけないという短いメールがあり、ひかりにまた何かあったのかと俺は心配で夜もろくに眠れない程だった。
結局、ひかりに何かがあったというわけではなく、ひかりが俺の所にはもう二度と帰らないと言ってることを伝えにくかったという理由からだった。



「シュウよ…そう、急くでない。
ひかりも辛いんじゃ…
勝手な思いこみから、雅樹との浮気に走ってしまったことをとても後悔しておる…
それに…やっぱり、ひかりはおまえさんが設定でひかりを愛してることにこだわって…
いや、こだわるというよりは申し訳なさのようなものを感じているようじゃ。
現実ならば、シュウのような格好良い男が自分のような平凡な女を好きになるはずがない…
そして、浮気までされてそれを許すはずがない…
つまりは、設定がおまえさんを苦しめておると思っておるのじゃ…」

「またそれかよ!
でも、そんなこと言われて、俺は何をどうすりゃ良いんだ!?
設定だろうがなんだろうが、俺がひかりを愛してる気持ちは嘘じゃないのに、それをどうすれば良いっていうんだよ!」

ひかりの頑固さに俺は心底腹が立った。
そのことについては以前にも話しあったはずなのに、なんでひかりはわかってくれないんだ。
俺の力ではどうしようもないことを悩んで、何がどうなるっていうんだ。



「難しいところじゃな…
じゃが、ひかりも苦しんでおるんじゃよ。
ひかりは設定ではなく、生身の人間として心からおまえさんを愛しておる。
だからこそ辛いんじゃよ。
自分がそんな設定をしてしまったことを罪のように感じておるんじゃ。
ひかりは、今回の雅樹のことでさらに罪を深くした。
……おまえさんとよりを戻すということは…もしかしたら、ひかりの心の重石を増やすだけなのかもしれん。
シュウよ…もしも、これから先、ひかりだけが年をとっていくようなことになれば……ひかりのコンプレックスはますます酷くなるだろう。
おまえさんの気持ちはそうなってもきっと変わらんじゃろうが、ひかりの心はそのことでさらに苦しめられることになるんじゃぞ…」

「だったら、俺はどうすれば…」

俺はすっかり途方に暮れて、自分でもいやになるような情け無い声を出していた。