「これって、何ごはんになるんでしょうね。
朝にしては早いけど…」

「ごめんなさい。
やっぱりあの時起こせば良かったですね。
お腹はすいてらっしゃるだろうと思ったんですが、青木さん、よく眠ってらっしゃるようだったので…
それに、こんなお弁当でごめんなさい。」

「俺、この弁当、けっこう気にいってるんですよ。
そんなことより、野々村さんにはくだらないことで無理させてしまってすみません。
たとえ、物語を続けたって…それが本当に美幸達に影響を及ぼしてるかどうかなんて、確かめようもないのに…
ただの俺の自己満足なんじゃないかって…そんな風に思う事もあるんです。
でも、それでもなんとかシュウと美幸を別れさせたくなくて…
あなたには本当に感謝しています。
こんな馬鹿みたいなことに付き合わせてしまって…」

俺は率直な気持ちを野々村さんに話し、照れ隠しにビールを飲み干した。
普通の人ならきっと俺がこんなことを頼んだら、頭がおかしいと思うはずだ。
野々村さんも本当は信じてないかもしれない。
心の中では馬鹿馬鹿しいと思ってるかもしれない。
だけど、そんな素振りは少しも見せないどころか、こんなにも真剣に俺につきあってくれている。
それは野々村さんにも、普通の人には理解されないような不思議な能力があるからかもしれないが、それにしたってここまでやってくれるなんて……



(野々村さんって、本当に良い人だな…)



「いえ。私なんかに出来ることなんて、本当にたいしたことではありませんが…でも、ほんの少しでもお役に立てるなら、私はそれで嬉しいんです。」

「たいしたことですよ。
あなたは他の人間には出来ないことが出来るんですから…
あなただけが出来ることなんですから。」

それはお世辞でもなんでもない…俺の本当の気持ちだった。



「そ、そんな…でも、私…今までいやだったこの力が戻ってくれたことを今では感謝してるんですよ。
なくなったままだったら、何も出来ない所でしたもの。」

「……本当にすみません。」

「え…!?」

「亜理紗のせいで、能力を失う程の精神的ショックを与えてしまって…
元はといえば、俺のせいです。
本当に申し訳ありません!」

俺が頭を下げると、野々村さんの表情がなんだかとても強張ったものに変わった。