(あの直後は本当に大変だった…)


俺はぼんやりと五年前に想いを馳せる。



父さんと母さんはみゆきはどこだと半狂乱になって俺を責め立てた。
だけど、俺は、二人の行き先は知らないと…ずっとそう言い通した。
本当のことを言ったって信じてもらえるわけなどないのだから。

捜索願いも出し、母さんは探偵まで雇って美幸とシュウの行き先を探したが、当然、何の手掛かりもみつからなかった。
そのことで母さんは完全な鬱状態となり、そんな母さんを放っておくわけにもいかず、俺は実家に戻ったが、家はまるで針のむしろだった。
ずっと冷静だと思ってた母さんが理性をなくし、毎日泣いたりわめいたり…
家族が顔を合わせれば、些細なことから喧嘩が起きる。
母さんは病院に行くのをいやがり、それを許してしまったのも良くなかったのかもしれない。
家事も全くやらなくなっただけではなく、食欲もなく眠らず…母さんは別人のように痩せこけていった。
こんなことになったのは俺のせいでもある。
そう思い、俺は母さんにはどんなことを言われてもされても決して逆らわず、好きなようにさせておいた。
こういう不安定な精神状態では、馬鹿なことをしてしまう恐れもある。
俺は万一のことを考え、母さんから目を離すことが出来ず、その当時は神経が休まる時が少しもなかった。
しかし、本当に危険なのは父さんの方だった。
父さんも母さんと同じように痩せて来ていたが、それも精神的なものだろうと軽く考えていた。
その父さんが、ある時、突然倒れ、病院に運ばれた。
そこで宣告された病名は胃ガン…
ショックだった…
母さんには聞かせたくなかったが、まさかそんなことを言われるとは思っていなかったので、一緒に医者に話を聞いてしまったため母さんも知ることとなった。
これ以上、母さんに心の負担がかかったらどうなるのだろうと俺は不安を感じたが、そのことが意外にも母さんの心をよみがえらせた。
父さんを失いたくないという想いだったのか、自分が支えなければと思ったのか、とにかく皮肉なことにその時から母さんは少しずつ心の健康を取り戻していった。
幸いなことに、父さんも初期段階だったため、思ったよりも早くに元気になることが出来た。
父さんの回復と同じように、母さんも…そして、家族の間の関係も少しずつ良くなっていき…
気が付いた時にはすでに三年近くの時が流れていた。