「うん、わかった…すまないな。
じゃ、また連絡してくれ。
あんまり強行には追い詰めるなよ。」



それはマイケルからの電話だった。
数日前に、もう解決は時間の問題と言いながら、なかなか連絡がないので心配していたのだが、やはり問題が発生していた。
いや、問題というほどではないのかもしれない。
亜理紗の事務所サイドは、マイケルの提示した条件をもう完全に納得して飲んだのらしいのだけど、当の亜理紗が体調を悪くして入院したという。
マイケルの話では、おそらくそれは仮病だろうということだったが…
要は、心の整理をつける時間がほしいということだろう。
ここまで来たら、もう慌てることはない。
無理に押さえつけたりしたら、亜理紗はまた何事かを画策してくるかもしれない。
多少時間を与えても納得してもらった方が、こちらとしても後々助かる。



「マイケルさんですか?
何か良くないことでも…!?」

「いえ、そういうわけではないんです。
それよりも野々村さん…本当に大丈夫なんですか?」

「はい…私は大丈夫です。
でも、食料もなくなって来ましたし、このところ、こっちの方にかかりっきりだったから、少し休んで家のことを片付けます。」

「そんなことなら俺が……」

「いえ、青木さんはお休みになられて下さい。
このところ、ずっと私に付き合って下さって、お休みになられてないじゃないですか。
私も買い物が済んだら少し休みます。」

「そうですか…じゃあ、そうさせていただきます。」



確かに眠いのは事実だった。
野々村さんに書いてもらった美幸と雅樹を別れさせる物語は、事の他時間がかかった。
もっと簡単に書きあがると思っていたのだが、こういうものは意外と時間がかかる作業なのだと俺は実感した。
俺もずっと彼女についてその様子を見ていたから、ここ数日は仮眠程度にしか眠っていない。
でも、書いてくれている当の彼女が眠らないのに俺だけが休むとも言い出しにくく、我慢していた。
だが、ようやく休む気になってくれたようだ。
俺は今のうちに休んでおいて、野々村さんが買い物を済ませて戻ったら夕食の用意でもしようと考えた。