「ひかり、おは……」



賢者のおじいちゃんはそう言うと、急に俯いて肩を震わせた。



「おじいちゃん…酷いじゃない。
笑う事ないでしょ!」

「そ、そうは言ってもその顔…
おまえさん、その目でちゃんと見えとるのか?」



そう言うと、おじいちゃんはまた俯いて笑いを堪える。
確かに昨夜は今までで最高に…身体中の水分が枯れるほど思いっきり泣いたから……
瞼は重くてなんだかひりひりするし、開けにくいのは確かだけど、そんなに悲しんでる乙女を笑う事ないでしょうに…



「とりあえず、朝飯にするか。」

テーブルの上には古いタイプのトースターがあった。
上から食パンをいれて焼くあれだ。
おじいちゃんは、そこに二枚の食パンを入れてスイッチを入れた。



「へぇ、おじいちゃん、朝はトーストなんだ。
賢者だからおかゆなのかと思ってた。」

「なんで、賢者だとおかゆなんじゃ。
おまえさんの設定はだいたいが曖昧じゃし、これといって明確な規則性もないから、キャラとしてはどうすれば良いのか戸惑う事が多いぞ。
ま、その分、自由度が高いとも言えるんじゃがな…」



パンの焼ける香ばしいにおいがだんだん広がって来て…
それは、とても穏やかな時間。



「ひかり、マーマレードとバター、どっちがええんじゃ?」

「えっ!いちごジャムかマーガリンじゃないの?」

「いいや!マーマレードかバターじゃ!」



おじいちゃんがそう言い張るから、私はバターを塗ってトーストを食べた。
昨夜あんなに泣いたのに…どうしようもない気持ちになったのに、それでも朝にはお腹はすいて…
カリカリに焼けたトーストは、本当においしかった。



「……おじいちゃん、朝から四枚は食べ過ぎじゃないの?」

「何を言うか。
このくらい食べとかんと、昼までもたんわい。」



ありふれた…どこにでもありそうな日常的な会話を交わしていることが、なんだか私には不思議な気がした。



「ひかり……
そんな酷い顔になるまで泣いたら、気持ちはすっきりしたかのう?」

「えっ!?……う、うん、まぁね。」

「そうか…それじゃあ……」

「おじいちゃん、私をここに置いてくれない?
ちょっとした家事なら私がやるから。」

「ひかり……
そうじゃな……まぁ、そうすぐというわけにはいかんか。」



おじいちゃんは、ちょっと戸惑ったような顔をしたけど、すぐに微笑んで頷いてくれた。
きっと、おじいちゃんは私がいずれシュウの所に戻ると思ってる。
でも、私は……