＊



「あれっ！？
明かりがついてるぞ。」

「シュウ…ビンゴじゃったな。」



（ビンゴ……？）



賢者の家は俺の家からそれほど遠くはない。
走れば２０分もかからない所だ。
だが、俺のマンションのあたりは便利な住宅街なのに、そこから少し離れた所にあまりにも不自然な形で深い森が出現し、賢者の家はその森の奥にある。
ひかりのイメージでは、きっと賢者ってものは森の中に住んでるイメージだったんだろうけど、その森の存在はかなり不自然だ。
だけど、ここの住人達は特にそういうことを不審に感じることはないようで、それどころかあの森のことをいまだに気付いていない者もいるようだ。
なにしろ賢者は後になって作られたキャラで、当然、あの森も後になって出現したからだ。
だから、賢者の家への訪問者は極めて少ないはず。
ましてや賢者は今不在だというのに、そこに明かりが灯っているということは…



（ひかり……）



扉を開いたと同時にそこにひかりが来ている事を俺は確信した。
なぜなら、玄関にあったブルーの靴はひかりのものだったから。



「ひかり！おるのか？」

「おじいちゃん……あっ！」



ひかりの顔が俺を見て、急に強張ったものに変わった。
その目や鼻は真っ赤で、瞼は腫れ、ひかりが泣いていたことがすぐにわかった。



「ひかり…」

「……帰って！」

ひかりは俺に背中を向け、きっぱりとした声でそう言った。
ここは賢者の家なんだから、その言葉が俺に向けられたものだということは間違いない。



「シュウ……ひかりのことはわしに任せて、おまえさんは帰るんじゃ。」

「でも……」



賢者は、俺をさとすような目でみつめ、優しく俺の腕を叩いた。



「……わかったよ。
じゃあ、俺は帰るから……」



帰りたくなかった。
ひかりと話したかった。
やり直そうと言いたかった。

だけど、きっと今は賢者に任せるのが一番良い方法なんだと、俺は自分に言い聞かせた。
あの賢者はおとぼけキャラではあるけれど、一応、「賢者」なだけにしっかりした面もある。



（きっと、うまくやってくれるさ…）