「あぁ、ええお湯じゃった。
わし、ここに引っ越してこようかのう…
おまえさんもわしがいた方が寂しくなくて良いじゃろ?」

ひかりのパジャマを着て、頭から湯気を立たせる爺さんが、そう言いながらにっこりと微笑む。




「何言ってんだ。
腹が減っただの、風呂に入りたいだの、その度にこき使われて…寂しいどころか、俺の貴重な時間が削られて、たまったもんじゃないぜ。」

「またまたぁ…」



賢者は、帰るのが面倒だということで、今夜は泊まっていくと言い出した。
まぁ、それは構わないといえば構わないのだけれど、俺のことを気にしてくれてるんだとしたら、やっぱり申し訳ない気がする。
賢者の目には、俺がまだ痛々しく映ってるんだとしたら、それもまた辛い。



(もっと元気出さなきゃな…)



そう思いながら、俺もひとっ風呂浴びようかと思った時、訪問者を知らせるチャイムが鳴った。



「誰だろう…今頃…」

「タカ達じゃないか?
おまえさんが遊びに来ないから、向こうから遊びにきたんじゃないか?」



タカは、ああ見えて意外と几帳面なところがあって、俺の家に来る時も、よほどのことがない限り、メールか電話をしてからしか来ない。
だが、それは今までひかりがいたからだったんだろうか?
ぼんやりとそんなことを考えながら、インターフォンをのぞくと、そこに映っていたのは…あの男…ひかりの彼氏のなんとかいう男だった。



「シュウさん……僕、雅樹です。」

「何の用だ?」

「ひかり…帰って来てませんか?」

「ひかりが…?
どういうことだ!?」

「それが……」

「今すぐ上って来い!」



どういうことなんだ?
ひかりがあいつの所に帰ってからまだ三日だっていうのに、もう喧嘩でもしたっていうのか?



「どうしたんじゃ、シュウ…」

「あいつが…ひかりの男が来た。」

「なんじゃと!?」



俺は、玄関の扉を開け、早く話が聞きたくてあいつが来るのを苛々しながら待っていた。