「ひかり…僕、彼女をこのまま放っておけない…
彼女の負った心の傷はとても深くて…誰かが傍にいてやらないと、彼女は死んでしまうかもしれない…」

「そ…そんな…
そんなの酷いじゃない!
じゃあ、私はどうなるの!?
私は、シュウと別れてここに来たんだよ!」

「ひかり…君には本当に悪いと思ってる…
でも……きっと、無理だったんだよ。
主役の君と名もなきキャラの僕が愛し合う事を、きっとこの世界は許さなかったんだ。
だから、こんなタイミングで彼女が……」

「ひ、酷い!
今更そんなこと…雅樹君、酷過ぎるよ!」

「ひかり…やぱり、君はシュウさんと離れられない運命なんだと思うよ。
もう一度、シュウさんとじっくり話し合ってごらんよ。
なんなら、僕が話しても良いよ。」



私は雅樹君を殴ってやりたいような気分だった。
あんなに私のことを愛してるとか、一生大切にするとか言っておきながら、こんなにも簡単に元カノの所へ行こうとするなんて…



「ひかり…本当にごめん…
でも、信じて……僕がひかりのことを好きになったのは本当だし、こんなことがなければ、きっと僕はずっとひかりを愛してたと思う。
でも……正直言ってずっと不安だった。
僕みたいな名もなきキャラが本当にひかりとつきあって良いんだろうか?
ひかりは本当にこんな僕のことを愛してくれてるんだろうかって…
……その点、彼女にはそんな気を遣うことはない。
一度はふられたけど、今度はきっと僕のことだけを愛してくれるって…そんな風に思えるんだ。
彼女はひかりみたいに可愛くないし、役らしい役だって…名前すらない。
彼女がこの世界からいなくなっても、世界は何一つ影響を受けない。
だけど、そんな彼女でも今まで精一杯生きて来たんだ。
だから、僕は彼女を守りたい。
これからも生きていってほしいから、支えてあげたいんだ。
勝手なことを言ってるのはわかってるけど…彼女には僕しかいない。
だから、どうか、僕を許して。」



私には何も言えなかった。
名もなきキャラの雅樹君が…たいした設定すら持っていない雅樹君が自分の意志で精一杯彼女を守ろうとしてることが伝わって来たから…
それに、雅樹君が考えてることは、私がシュウに対して考えてることにとてもよく似てて…
自分のコンプレックスに押し潰されそうになる気持ちは痛い程わかるから…
だから…言いたい事はいっぱいある筈なのに、私には何も言えなかった。