「シュウよ…
おまえさんは、今度の件についてなんとも思わんか?」

エクレアを飲みこむと、賢者はえらく深刻な声でそう訊ねた。



「なんとも…って、どういうことだ?」

「おまえさんも小説のキャラだからわかるじゃろう?
主人公は、作者が書かない限り、物語の流れを大きく変えてしまうような変化があるはずはないんじゃ。
なのに、主人公であるおまえさんがひかりと別れてしまうなんて…そんなことがなぜ起きたんじゃろう?」

賢者はそう言って、頭をひねった。



「それは……詳しいことは俺にもよくわからないが……ほら、ひかりは元々この世界の者じゃない。
だから、自分の意志で自由に動ける…みたいなことを言ったのはあんたじゃないか。」

「確かにそうじゃ。
しかし、ひかりとおまえさんが別れるというのは、この物語を根本から覆すような大事じゃぞ。
なんせ、この物語は元々ひかりとおまえさんのラブストーリーじゃったわけじゃからな。
それが、二人が別れて別々の道を歩いて行くっていうのは…どうも腑に落ちんのじゃ…」




そういうことなら俺だって考えなかったわけじゃない。
でも、現実にそうなってしまったんだし、だからこそ、賢者が以前言った通り、きっと、ひかりは自分の意志で動けるんだろうって俺はそんな風に思ってた。
だから、賢者がどうしてそんなことを気にするのかが、逆に俺には不思議な気がした。



「でも…そういうストーリーだってあるじゃないか。
最初はラブラブだった二人が別れて、別の相手とくっつくなんて話は珍しい話じゃないぞ。」

「作者がそのように書けばもちろんそうなることだってあるさ。
じゃが、作者であるひかりはこっちに来ておる。
つまり、ひかりには書ける筈がないんじゃから、そうなる筈がないんじゃ。」

「だったら、やっぱり、あんたの言った通り、ひかりは自分の意志で自由に動く事が出来て、そして、それによって物語も変わっていくってことなんじゃないのか?
……たとえ、それが物語に大きな影響を及ぼすことだとしても…」

「……そんなことになったら、この世界のルールはないも同然じゃ。
本当にそんなことが出来るんじゃろうか…そんなことをしてこの世界はなんともないんじゃろうか…」

賢者はやけに深刻な顔でそう呟いて、こっちまで妙に不安な気持ちになってしまった。