「本当にそれだけで良いのか?」

「うん、十分だよ。
だいたいのものは雅樹君の家にあるし…」

「そうか…でも、もし何か必要なものがあったらすぐにいってこいよ。
俺と別れたって…おまえが大切な者であることは変わらないんだからな。」

その言葉に私の心臓はドキッと高鳴った。



私が身の周りのちょっとしたものしか持ち出そうとしなかったことについて、シュウはとても驚いて、しかも心配していた。
雅樹君の家は狭いから、もう少し広い所に引っ越したらどうかって…その費用は全部出すとも言ってくれた。
もちろん、そんな申し出に甘えられる筈もないし、私は雅樹君の家みたいなこじんまりした所の方が落ちつくんだとうそぶいた。



「それと、ひかり…これ…」

そう言ってシュウが差し出した物は、あのハート型の指輪だった。



「え…?で、でも…」

「……わかってる。
こんなの持っていたくないっていう気持ちはよくわかる。
でも………ほら、考えてみたら、俺、今までこういうプレゼントしたことなかっただろ?
だから…ま、記念っていうか…
もちろん、普段から身に着けててほしいなんて思ってない。
ただ、持っててほしいだけなんだ。
第一、俺が持っててもどうしようもないし…」

シュウはそう言って小さく笑う。




(だったら、これもここあちゃんにあげれば良いのに…)




私は心の中で悪態を吐いた。
シュウから初めて指輪をもらったのは嬉しかったけど、それがここあちゃんとおそろいだと知って激しくショックを受けたあの指輪…



「ひかり、持っていってあげたらどうじゃ?
その指輪には、シュウだけじゃなくここあちゃんの想いもこもっとるんじゃから。」

「ここあちゃんの…?
おじいちゃん、それ、どういうこと?」

「あれ?ひかりは聞いとらんのか?
ここあちゃんは、ひかりと仲良くなりたいから、後でおそろいのを買ったと言うとったぞ。」

「そうなんだ!?俺も知らなかった。
っていうか、ここあちゃんがおそろいのものを買ってたなんて知らなかったよ。
確かに、ここあちゃんはこの指輪をものすごく気にいってたけどな。
へぇ…ここあちゃんがそんなことを…」



なんだか二人の言ってることがよくわからない。
シュウは嘘を言ってる風には思えないけど…ってことは、あれは本当にシュウがここあちゃんに買ってあげたものではないってことなんだろうか?
じゃあ、あれは私の妄想だったってこと!?