「ひかり!
戻って来たのか!」

ソファに座るひかりを見て、賢者は顔を綻ばせてひかりの傍に駆け寄った。



「あ、あの…私……」

「違うんだって!
ひかりは荷物を取りに来ただけなんだ。」

困ったような顔をするひかりが可哀想で、俺は慌てて口を挟んだ。



「荷物を……それじゃあ、本当に……」

「ごめんね……」

賢者の顔から一瞬にして微笑みが消えた。
ひかりも同様に暗い顔に変わって……



「あ、爺さん、プリン食べるか?
ロールケーキもあるから、それも食べなよ。
コンビニのだけど、すごくうまいぜ!」



その場にいるのが気まずくて、俺はキッチンに向かった。



「爺さん、ミルクティーで良いんだな?」

「……あぁ。」



賢者の返事はその表情と同じく、暗く沈んでいた。



「せっかくだからひかりも食べろよ。」

「うん…ありがとう……」



お茶の用意とスイーツをワゴンに乗せ、俺はそれを賢者達の前に運んだ。



「シュウ…今までどこに行っとったんじゃ…
あれからわしは毎日来てたんじゃぞ。」

「あ…あぁ、悪い。
ちょっと、友達の引っ越しとかあって、手伝いに行ってたんだ。」

そんな嘘が俺の口を吐いて出た。



「引っ越しの手伝いじゃと?
わしゃ、おまえさんがひかりのことを悲観して、馬鹿な真似でもしやせんかと心配で…」

「や、やだなぁ、おじいちゃん。
シュウがそんなことするわけないじゃない。
私と別れても、シュウにはすぐに素敵な人がみつかるよ。
……私なんかよりずっと素敵な人が…」

「そうそう。
俺、自慢じゃないけど女に苦労したことはないから…って、やっぱり自慢か!?」

俺はそんなつまらない冗談を言って、作り笑いを浮かべた。
だけど、二人は困ったような顔をするばかりで、少しも笑わなかった。



「このロールケーキ、うまいなぁ!
よく売り切れになってるって、ひかり、前に言ってたよな?
うん、確かにうまい!
……ほら、ひかりも、爺さんも早く食べろよ。」

さっきの冗談を打ち消そうと、俺は目の前のロールケーキを頬張って、はしゃいでみせた。