「シュウ……あの……
私………ごめんなさい!」

「あ……あぁ……」



酷く申し訳無さそうな顔をして謝るひかりを見て、俺はようやく気付いた。
そうだ……普通なら、彼女が他の男と浮気をすれば、怒るのが普通なんだと。
だけど、俺には不思議とその感情が起きなかった。
ただ、ショックで…ただ、悲しくて…それだけだったから、ひかりに頭を下げられた時は戸惑ってしまった。



「シュウ……それだけ?」

「それだけって……」



話している時に俺の頭を過るものがあった。
そうか、ひかりの場合は浮気じゃなくて本気だったから、だから、俺には怒りという感情が起きなかったんじゃないだろうかと。



「仕方ないじゃないか。
好きになる気持ちを止めることなんて、誰にも出来ないからな。」

「ありがとう……シュウは物分りが良いんだね。」



気まずい沈黙…
俺が物分りが良いだって?
冗談じゃない。
今の言葉は嘘っぱちだ!
本当なら、叫びたい!
考え直してくれ!
あいつと別れて帰って来てくれって、ひかりに感情をぶつけて叫びたい!
……だけど、俺のためにこんな見知らぬ世界にやってきたひかりをこれ以上苦しめることなんて……
俺に出来るはずがない。
どんなに辛くても、俺はひかりの幸せを最優先に考えなくちゃいけないんだ。



(それが唯一俺に出来ることだから…
ひかりを愛してる証だから…)



俺は、心の中で自分にそう言い聞かせた。



「えっと…厚かましいんだけど、いるもの持って行っていいかな?」

「あ、あぁ、もちろんだ。
なんだって……」



その時、訪問者を知らせるチャイムが鳴った。



「誰だろうな?」

俺は、ひかりに意味なく問いかけ、立ち上がった。



インターフォンの画面に映るのは、賢者の見慣れた顔だった。



「ひかり、賢者が来たけど入ってもらって良いか?
それとも帰ってもらおうか?」

「え?私のことなら気にしないで。
上がってもらってよ。」

「そうか、じゃ、そうする。」

俺は賢者と話し、エントランスのロックを開いた。