「雅樹君、私が行って来るよ。」

「えっ!でも……」

雅樹君の顔は途端に心配そうな表情に変わった。



「大丈夫だって…!」

何がどう大丈夫なのか、わからない。
そんなことを言ったのは、雅樹君じゃなくて自分自身を安心させるためだったのかもしれない。



「……雅樹君…いくらなんでもあれはないと思うんだよね。
シュウとは五年つきあって…
助けてもらったことも山程あったのに、私はそのお礼も言ってないし、お別れの言葉だって……」

「でも…会ったらまた気持ちがシュウさんに戻るなんてことはない?」

「ないない!それは100%ありえないって!
知ってる?雅樹君。
女ってね、気持ちが冷めると本当に冷たいもんなんだよ。
男の人みたいに引きずらないの。
私の心の中からは、シュウはもうほとんどいなくなってるし、もしも、シュウがおかしな真似して来たら引っ叩いてやる!…ってそのくらいの気持ちだもん。
ただ、お礼とお別れを言って、部屋の整理をしてくるだけ。
大きなものはもう全部処分してもらう。
シュウに未練もたれても困るしね。」

私はわざと明るい声でそう言った。

……雅樹君はわかってない。
私の心の中からシュウがいなくなってるんじゃなくて、シュウの心の中から私が消え去られてしまってるってことが…
私を美化しすぎてるんだな、きっと。




「こういうのは早い方が良いし…でも、今日っていうのも急だから、今から連絡して、明日、行って来るよ。」

「僕も一緒に行くよ。」

「ううん、明日は私が一人で行くよ。
早速、メールしとこうっと。」



私は携帯を手に持ち、雅樹君の目の前でシュウにメールを打った。
一人でいる時に打とうとしたら、きっといろんな想いが込み上げて打てなくなりそうだったから…
なんともないふりをして、絵文字の一つも使わず、ただ、明日荷物を取りに行っても良いかと訊ねるだけの簡単な文面を打ちこみ、すぐに送信した。



「そういえば、雅樹君。
まだ携帯持ってなかったよね。
雅樹君も持ちなよ。
あ、私も機種変しようかなぁ…」

「うん…そうだね。」



その時、着信音が鳴って、シュウからのメールが届いた。
文面は『OK。明日はずっと家にいるから。』
とても素っ気無い文面。



「OKだって。じゃあ、明日行って来るから。」

心の動揺をひた隠して、私は雅樹君にそう報告した。