「野々村さん、以前にも確かそういうことを言われたことがありましたよね。
これが美幸の今の状況だってどうしてわかるんですか?」



(あ……)



青木さんにそう言われて私は初めて気付いた。
一般的なゴーストライターの仕事の時は、あらすじを聞いてそれを文章に起こしただけで、青木さんのブログはそういうものはないけれど、なんとなく感じる物を書いていた。
今回は、本来の作者である美幸さんと直接会ったことはなかったから、あらすじも聞けないし今までとは性質が違う。
だから自信はなかったけど、幸いな事に私は物語から伝わるものを感じることが出来た。
いや…まだ完全に自信があるわけではないけれど、私が考えて書いているのではないと思う。
自分でもどう言えば良いのかわからないのがもどかしいけど、この感覚はきっと説明しても他人にはわからない筈。
何の根拠もないけれど…私も今まで気付いてなかったけど…私は美幸さんのこの物語を書く時に、なぜだか時間の流れを感じていた。
「もうすぐ今の状況に追いつく」とか、今日みたいに「これが今の状況だ」とか…
それは、今まで感じた事のなかった感覚で…だけど、私はそれを当たり前のことのように受け入れてた。



「野々村さん?」

「あ、すみません。

私は、青木さんに率直にそのことを話した。
自分でもよくわからないけれど、だけど、私は美幸さんの物語を書く度に、その時間を感じているということを…



「野々村さん!だったら、もしかしたら、先に物語を書けばこの世界はそのシナリオ通りに進むんじゃないでしょうか?」

「ええっ!?」

私は青木さんの突拍子もないアイディアに、大きな声を上げてしまった。



「だって、そもそも、美幸は自分で書いた物語の通りに小説の世界に行ってしまったんですよ。
だったら、野々村さんが書いてくれてもこの世界はその通りに動くかもしれません。」

「そ、そ、そんな無茶苦茶な!
美幸さんは元々この物語の作者だからで、私は部外者だから…」

「やるだけやってみましょう!」

「わっ!」

青木さんは、私の手を力強く握り締めた。
そんなことされたら……



「私…自信はありませんよ。
きっと、無理だと思いますよ。」

「もちろんです。
だめでもともとです。
でも、最初から諦めるより、やってだめな方が良い。」

そう言った青木さんの瞳は妙にきらきらしてて…私は眩しすぎて目を逸らしたけど、そんな前向きな青木さんがやっぱりとても素敵に見えて、ついこっくりと頷いてしまった。