「こ、これは…!」



私は自分の部屋からパソコンを持って戻った。
そこに書かれたものをほんの少し見ただけで、青木さんは目を丸くして驚いた。



「野々村さん…あの能力はなくなったって…」

「そうなんです。
……それが、昨夜、突然物語とリンクして…」

「そうだったんですか!
今日はなんて良い日なんだ。
早速、読ませていただきますね!」

青木さんの顔に、さっきと同じような…いや、それ以上の晴れやかな笑みが浮かんだ。
でも、それがすぐに消えることを私は知っている。
だって、美幸さんのあんな状況を知ったら、青木さんが笑っていられる筈がないんだもの…
そう思いながら見ている間にも、青木さんの表情は刻一刻と変っていった。
青木さんの瞳は食い入るように画面に映し出された文字を追い、その眉間には次第に深い皺が刻まれていった。



やがて、すべてを読み終えたであろう青木さんは何も言わず、渋い表情のまま片手で頭を押さえた。



「……なんてことをしでかしたんだ…
こんなことになるのなら…美幸は一体何のためにあっちの世界に行ったんだ!」

青木さんは、拳を握り締め、テーブルを乱暴に叩いた。
普段、冷静な青木さんがこんな風に感情的な行動をするってことは…きっと、心底、憤りを感じているんだと思う。




「ご、ごめんなさい。
私…あの……」

「野々村さん!むやみやたらと謝っちゃだめだって言ったでしょう!?」

「す、すみません!」

「……またぁ…」

「あ、す……」

私が口を押さえたら、青木さんはようやくくすりと微笑んだ。



「あなたが悪いわけじゃないんだから、謝ることなんてないでしょう?
……感情的になって申し訳ありませんでした。
美幸の馬鹿さ加減にあまりにも腹が立って…
いくらなんでもこんなことになってたなんて、本当に悔しくて…
……あ、そういえば、昨夜からってことは……もしかしたら、野々村さん、昨夜は徹夜して打ちこんで下さったんですか?」

「え…えぇ、まぁ…
打ち始めたら止まらなくなって…」

「そうだったんですか。
それはお疲れになったでしょう。
今日はゆっくり休んで下さい。
お昼ご飯も俺が作りますから、それまで休まれたらどうですか?」

「い、いえ、大丈夫です。
私、こういうことは慣れてますから。
多分……これが今の美幸さんの状況だと思います。」

「そうですか…
では、これからがどうな……」

青木さんが何かに気付いたように、不意に言葉を停めた。