(た…大変だわ。
美幸さん達、大変なことになってる…!)



私は無我夢中でキーを叩き続け、ふと気付くと外は明るくなっていた。



(どうしよう…
また書けるようになったことはすぐにも伝えたい。
だけど、こんな話を伝えたら青木さんにまた新たな心配をかけることになってしまう。
今は、亜理紗さんのことで大変な時なのに、本当に話して良いのかしら…)



嬉しい報告と困った報告…
片方だけを話すわけにもいかず、私は、考えがまとまらず小さな溜め息を吐いた。



(とりあえず、お茶でも…)



そんなことを考えて立ち上がった私は、すでにもう朝食の時間になっていることに気付き、慌てて下に駆け降りた。



「おはよう、野々村さん。」

「あ、青木さん!」



台所には青木さんがいて、お湯をわかしてくれていた。



「朝はパンとスープで良いですよね?」

「あ、す、すみません!
わ、私、すぐに用意……」

「ここは大丈夫ですから、野々村さんは顔でも洗ってきて下さい。」

「あ……は、はいっ!」



昨夜は全く寝てないし、美幸さんのことが衝撃的だったから、私は顔を洗う事を忘れていた。
あぁ、なんて恥ずかしい…!
私は逃げるようにして台所から立ち去った。



「最近のインスタントは本当に美味しいですよね。」

「は、はい、そうですね。
それよりも、このオムレツ…とってもおいしいです。」

「チーズを入れて焼いただけですよ。」

お湯を注ぐだけのスープとトースト、それにヨーグルトとオムレツ。
生野菜を買っておくべきだったと思いつつ、私はこの質素な朝食に温かな幸せを感じていた。
だって、今日は青木さんが作って下さったんだもの。

思わず顔が緩んでしまいそうになる程の幸福感…
だけど、あの事を言わなくちゃならないと思うと、その気持ちに翳りが差した。



「青木さん……え…と、あの…」

「なんですか?」

「えっと…実はですね…」

意を決し、ようやくあのことを話しかけたまさにその時、青木さんの携帯が鳴った。



「ちょっと失礼…あ、マイケルだ。」

青木さんは携帯を取って、話し始めた。
席をはずした方が良いのかなとも思ったけど、聞かれたくないことならきっと青木さんが立たれる筈だと思いながら、私は出来るだけ聞かないようにとお茶の用意をした。
青木さんの機嫌はとても良い。
声も明るいし、話が進むにつれ笑顔が増える。
端々に聞こえる言葉からも、きっと、亜理紗さんの件で何か良いことがあったのだと私は推測した。