「シュウ…ま、待ってくれよ。」

タカの声も耳を擦りぬけていくだけで、俺はただ前だけを見て黙々と歩いていた。
正直言って、さっきのことはものすごいショックだった。
あのひかりが…人見知りで、俺以外には同性の友達さえいなくて、そして俺だけを愛してると信じてたひかりが知らない男のベッドの上に裸でいるなんて…
頭の中が酷く混乱して、今のこの状況が本当に現実なのか、それとも夢なのかもわからないくらいだった。



(……夢?)



「タカ…」



不意に足を停めた俺の背中に、後ろから来たタカの肩がぶつかった。



「ど、どうしたんだよ、シュウ…」

「タカ…これって…もしかしたら夢なのか?
俺は今、夢を見てるんだろうか?」

「シュウ……しっかりしろ。
そりゃあ…おまえの気持ちもわかるけど…でも…これは夢なんかじゃない…」

俺の腕を握り締めるタカの感触が確かに伝わる…
でも…あのひかりが……
ひかりが、男と…?
ありえない、そんなこと……



「タカ……俺を思いっきり引っ叩いてくれないか?」

「え……!?
……わかった。」

タカは驚いたような顔をしていたが、やがてゆっくりと頷いて、俺の頬を引っ叩いた。



「……いて…」



派手な音と共に振り下ろされたそれは、一瞬、意識が飛んでしまう程の強烈なビンタだった。
俺はよろめく足を咄嗟に踏ん張る。



「……タカ…
少しは加減しろよな。」

「ご、ごめん……」

タカは、焦った様子で俺に謝る。
何もわるいことなんてしていないのに……



「……ありがとな。」



今のビンタのおかげで俺ははっきりと目が覚めた。
これは夢でもなんでもない。
現実なんだ。
ひかりには、男がいて…そして…



(俺は……ふられた……)



心が痛い…
タカに打たれてじんじんとうずく頬よりも、もっとずっと…