(準備OKなんだな?)

耳元で囁いた俺に、アキラは親指を立てて片目を瞑った。
慌しい三日間だったが、ついにここまで辿り着いた。
俺は、緊張と期待で高鳴る胸を押さえ、玄関の鍵を開け、ひかりを先にして歩かせる。



「あれ…?」

「何?」

ひかりが、リビングの扉の前で立ち止まった。



「これ…」

ひかりが指差したのは、黒い布だ。
リビングの扉が硝子作りだから、中が見えないようにしたんだろう。



「いいからいいから。」

ここは考える時間を与えてはいけないと、俺は片手でノブを回し、もう片方の手でひかりの背中を押し出した。



「おめでとう!」


扉を開けた途端、クラッカーの破裂音が連発して響き、色とりどりの紙吹雪が舞い踊った。



「わ…あ、あ……」



ひかりは、何が起こったのかよくわからない風で、ただ目を丸くして口までぽかんと開けていた。
それもそのはず、部屋は出掛ける前とはまるで違い、ピンクを基調に女の子の好きそうなレースやキラキラした硝子玉でとても可愛らしく飾りたてられていた。
その上、至る所に鮮やかな花が生けられ、クラッカーの火薬のにおいと同じ位に花の甘い香りが漂う。
あんな短い時間によくもここまで出来たものだと、俺はすっかり感心してしまった。




「ひかりさん、シュウ…さぁ、二人でこの紐を引っ張って!」

見上げればそこには大きなくす玉がぶら下がっていた。
ひかりに紐を手渡したここあちゃんは、どきっとするような露出の多い真っ赤なドレスを着ていた。
腰のあたりまで深いスリットが入り、少し動いただけで白い脚がちらりと見える。



(……目の毒だ…)



俺は、さっと目を逸らし、ひかりの顔をみつめた。
ひかりはまだ状況を理解出来ないらしく、心配そうな顔で俺をみつめる。



「良いか、じゃ、引っ張るぞ!」

ひかりはそれに小さく頷き、俺達はくす玉の紐を引いた。



「五周年、おめでとう!」



くす玉が割れた瞬間、飛び出たそのメッセージとどさっと音がする程の紙吹雪。



(こんなものまで作って…)



きっとタカ達も昨夜は徹夜だったに違いない。
そんなことを考えると、俺は胸が熱くなった。



「ありがとう、みんな!」



ひかりはそこに書かれたメッセージを見ても、まだよくわからない様子で、すがるような視線を俺に向けた。