「私、そろそろ…」

「だめ…」



さっきから何度もそう言ってベッドから出ようとするのに、その度に雅樹君が私を抱き締めて離してくれない。



「雅樹君……今日は…」

「このままここに泊まっちゃいなよ。
……ううん、もうずっと帰らないでここに住んだら良いんだ。」

「そ、そんなこと…」

「……ひかり、あんなことされても、まだシュウさんのことが好きなの?」

「……それは……」



すぐに好きだとは答えられなかったけど…
でも、今日のことですごく傷付いたけど、だからといってシュウのことが急に大嫌いになったわけじゃない。
……そんな簡単に嫌いになれるくらいだったら、こんなに傷付かない。



「雅樹君、ごめんね…
私、もう行かなきゃ…」

雅樹君の隙をついて、私は起き上がった。



「ひかり…」



雅樹君の声は切なかったけど、私は急いで服を着て、身支度を整えた。



「ひかり…
本気で考えてみて。
僕…ひかりがこれ以上傷付くのを見たくないよ。」

「……雅樹君、心配かけてごめんね…
でも…私なら大丈夫だから…
本当に雅樹君には感謝してる…」



そう言って、私は雅樹君の家を飛び出した。
雅樹君の私を呼ぶ声に耳を閉ざして…



家が近付いて来るにつれて私の気持ちはまたどんどん重くなって、歩く速度もカメみたいに遅くなっていた。



「今から帰るね。
今、コンビニの前だけど、なにか買ってくるものある?」

私はシュウのそんなメールを打っていた。
もしも、家にまだここあちゃんがいたりしたらショックだから…



「特にない。
気をつけて帰って来いよ。」

シュウからの返信はすぐに来た。
それは、ここあちゃんがもう家にはいないってこと。



(……良かった…)

おかしいけれど、それでほんの少し胸のつかえが取れたような気がした。



やっぱり…こんなことがあっても、やっぱり私はシュウが好きで…
別れたくないと思ってる。
だけど、私がそう思ってても、シュウがここあちゃんに本気になってしまったら…
ここあちゃんと隼人君がラブラブだっていう設定がある以上、二人がくっつくなんてことはないとは思うけど、それでもやっぱり心配だった。
だって、あのここあちゃんだもの。
私なんかとは比べものにならない。
でもでも、シュウが私にぞっこんっていう設定もあるにはある。
だけど、それならそもそも浮気なんてするはずないのに、どうして…



少しも考えがまとまらないまま、いつの間にか私はマンションの前に着いていた。