「いらっしゃ…ど、どうしたの!?」

いつものようにドアを開けてくれた雅樹君の目が、私を見た途端、大きく見開かれた。
だって、私は雅樹君の家に着くまでの間、ずっと泣き続けていたんだから。



「雅樹君……」

それだけ言うのが精一杯で、私は雅樹君に抱きついてますますわんわん泣きじゃくってしまった。









「少しは落ちついた?」

ひとしきり泣いた後、雅樹君は私に温かいココアを出してくれた。
私はそれを一口飲んで、雅樹君の質問にただ黙って頷く。



「ゆっくりで良いから…
事情を話してくれる?」

私も聞いて欲しかった。
だけど、話そうと思ったらさっきの光景が思い出されて、また涙がこみあげて声が詰まってしまう。



「よっぽど辛いことがあったんだね…
もしかして…シュウさんに、僕とのことがバレちゃったの?」

「ち…違う。
そうじゃないの…
実はね……」

私は、ゆっくりと話し始めた。
サンダルのかかとが折れた事、それで靴を履きかえようと家に戻って…
そこで見てしまったあのことを…



「酷い!
シュウさん、あんまりだよ!
女を自分の家に連れ込むなんて、信じられないよ!」

雅樹君がこんなに怒った顔を、私は初めて見た。
本気で怒ってくれてるんだってことがよくわかったけど、そうなるとおかしなことにちょっと後ろめたい気持ちにもなってしまった。
だって…私は家にこそ連れ込んではいないものの、浮気してるって点ではシュウと同じなんだもの…



「で…でも…
私も…」

「ひかり!
もうあんな奴とは別れちゃいなよ!
そりゃあ…僕は、ルックスにしろ住んでる家にしろ、シュウさんに勝てるものはないかもしれないけど、ひかりを愛する気持ちだけは絶対負けない!
僕は、シュウさんよりもひかりのことをずっと大切にするよ。」

「雅樹君…ありがとう…
でもね…」

「ひかり!
わかってる!?
ひかりはシュウさんに甘く見られてるんだよ!
それでなきゃ、ひかりが出て行って間もなく女を連れこんだりなんてしない。
ね…ひかり、いいかげん、潮時なんだよ…
シュウさんのことなんて、忘れた方が良い…
君には僕の方が合ってるんだよ。」

そう言って、雅樹君は私に熱い唇を押し付けた。
いつもよりもずっと長く情熱的で…



「僕が、シュウさんのことなんて忘れさせてあげる…」

雅樹君の吐息が私の耳をくすぐる。



「雅樹…くん……」