「じゃあ、行って来るね。」

「あぁ…気を付けてな!」



次の日、私はいつもと全く変わらない様子で家を出た。
本当は、昨日から暗い気持ちをひきずっていたけれど、それを口に出すわけにはいかないから、少し気合いをいれておしゃれをしてみた。
可愛い服を着ると、わずかとはいえ気分をリフレッシュさせてもらえるから。



(あたた…)



無理して履いたいつもよりかかとの高いサンダルはやっぱり歩きにくい。
バランスを取りながらゆっくりと歩く。
雅樹君の家までは、歩いて20分ちょっとって感じかな?
疲れるって程でもなく、なんとなく歩いてるうちに着く距離。
だけど、今日はいつもと少し事情が違う。



(あぁ…やっぱり、私にはやっぱり細いヒールなんて無理だ…
見た目は可愛いけど、こんなに足が痛いなんて……あ!!)



道端の小さな石ころに躓いて、危うく転ぶ所だった。
咄嗟に態勢を立て直したものの…



「あーーーー……」



気が付くと、細いヒールが根元からぽっきりと折れていた。



(あぁ…なんてこった。
いつもの靴にしとけば良かった…
いや、何度か履いて慣らしとくべきだったか…なぁんて、そんなこといまさら考えても意味ないし!
それにしても困ったな…どうしよう…こんなんで雅樹君家まで行けるかな…
いや、帰りのこともあるし……やっぱり家に戻った方が良いよね…)



こんなことになったのは、ちょうど雅樹君家と家との中間地点あたりのことだったから少し迷ったけど、私はやっぱり家に戻ることにした。
ヒールが折れた方の足ではつま先だけ着いて、なるべく傍目にはバレないように…



(……あれっ?シュウ…?
どこか行くのかな?)



曲がり角を曲がって、うちのマンションが見えた時、私はそこにシュウの姿をみつけた。
声をかけようかと思った時、シュウが私に背を向けて大きく手を振った。



「こっちだよーー!」

「シュウーーー!」



シュウの名前を呼ぶのは聞き覚えのある甘えたような声…
思った通り、顔の横で小さく手を振るここあちゃんが見えたから、私は思わず物影に身を隠した。
今見た光景に、私の身体はががたがた震えて……



(酷い…シュウ…
家にまでここあちゃんを連れ込んで…)



さっきの様子から、きっとここあちゃんがうちに来るのは初めてだと思えた。
今まではどこで密会してたのかわからないけど、ついにうちにまで連れこむようになったんだと思ったら、なんとも言えない気持ちになった。
私とシュウのベッドで…今からシュウはここあちゃんと…



そう考えただけで、身体の震えはなおさら酷いものになった。