「じゃ、そろそろ帰るね…」

「ええーーーっ…もう帰っちゃうの?やだ…帰っちゃやだ…」

雅樹君は拗ねたような声を出し、私を背中から抱き締める。



「……あんまり遅くなると…ほら…ね?」

私は雅樹君の腕を優しくふりほどき、愛想笑いで誤魔化した。



「……ねぇ……シュウさんは気付いてる様子はない?」

「う、うん。
大丈夫みたい。」

「へぇ…シュウさんって意外と鈍感なんだ。
最近のひかり、前よりずっと綺麗で色っぽくなってるのに…おかしいと思わないのかな?」

その言葉は、雅樹君には似合わないちょっと意地悪な口調に聞こえた。



「そんなことないよ。
私…綺麗にも色っぽくもなってない。」

「なってるよ…
そんなことにも気付かないなんて、シュウさん、よっぽどここあちゃんとうまくやってるのかもしれないね。」

その一言が、私の心に突き刺さった。
そうだ…ここあちゃん……
考えないようにしてたけど…シュウとここあちゃんが、私と雅樹君みたいなことやってるんだと思うと、自分のことは棚に上げて胸がきゅんと傷んだ。



(シュウ…ここあちゃんのこと、本気で好きになったりしないかな…)



「……そうかもね。
じゃあ、雅樹君、私、帰るね。」

「あ、ひかり……」

心の中の本当の気持ちを押し殺し、私はわざと平気な顔をして、片手を振って雅樹君の部屋を後にした。